中国が国家安全委創設し香港を管轄
次期行政長官選へ布石
基本法の解釈めぐり混乱
11月13日に閉幕した中国共産党第18期中央委員会第3回総会(3中総会)で内外の治安維持を統括する国家安全委員会の創設が発表され、香港もその管轄下に入ることで中央政府の監視・締め付けへの警戒感が強まっている。2017年の行政長官選挙をめぐり直接選挙制をどのレベルで導入するか、香港基本法(ミニ憲法)の解釈でも混乱し、香港トップの梁振英行政長官は中央政府と市民の板挟みで苦しい政権運営を迫られている。
(香港・深川耕治、写真も)
3中総会では旧ソ連の国家保安委員会(KGB)に近いとされる国家安全委員会と改革の司令塔となる中央改革全面深化指導小組の2組織の新設が決定され、安定と改革を目指す習近平体制が推進する「政左経右」路線(改革は経済だけにとどめて政治は引き締め)がさらに加速するとの見方が強い。
22日、北京で内外記者と交流した中央党校の謝春涛教授は、党の決定に経済・社会改革内容が多い一方で政治体制改革が少ないことに失望している人が多いことを認めた上で「中国の社会主義制度でのいかなる改革も(欧米型の)多党制や三権分立を使うことはあり得ない。もし導入すれば中国は内乱に陥り、世界に災難をもたらす」とクギを刺し、「中央改革全面深化指導小組は改革の決意を十分に表している」と述べている。
この動きに敏感に反応しているのが香港の民主派だ。
国家安全委員会には中国政府が香港やマカオの統治に責任を持つ国務院香港マカオ弁公室が含まれており、「(中国政府転覆などを禁じた)香港基本法23条に基づく条例を立法化しなくても中央が国家の安全維持を理由に香港の内部事務に介入可能になる」(民主派の李卓人立法会議員)との懸念の声が広がっているからだ。
21日から3日間、香港を訪問した香港基本法の解釈について諮問する香港基本法委員会の李飛主任(全国人民代表大会常務委員会副秘書長)は22日、普通選挙が導入される見通しの次期香港行政長官選挙(17年)について「法的資格があればどんな人物も立候補は排除できないが愛国愛港(香港を愛する)が条件」「中央政府に対抗する人物は就任できない」と明言し、仮に中央政府に対抗する人物が当選しても任命しない方針を表明した。
中国共産党の一党独裁に真っ向から反対する民主派の候補者が選挙で当選しても長官就任は容認しない立場を示し、次期行政長官選に直接選挙を導入する上で1人1票の選挙権を許容し、被選挙権についても「非合理的な制限は設けることはない」と述べた。
また、一国二制度の香港については「特殊な場所」と表現し、中央政府に刃向かう人物が香港トップになれば「香港の繁栄と安定に深刻な影響を及ぼしかねない」と警鐘を鳴らし、何らかの形で候補者を事前に選別選定する必要があることを示唆した。
候補者の事前選別認定に関しては、26日、中国政府の駐香港中央連絡弁公室(中連弁)宣伝文体部の●(=赤におおざと)鉄川部長が「一般有権者が行政長官候補を指名する『公民指名』と特定党派の候補者を擁立する『政党指名』は香港基本法に基づいておらず、指名委員会の権利を侵害するので賛成できない」と述べ、民主派が求める公民指名と政党指名を一蹴している。
今後、選挙制度を含め、香港の政治制度の行方を見通す上で重要なのが、香港基本法についての中央政府の解釈だ。
特に香港のトップを決める行政長官(任期5年、1回のみ再選可能)選挙については従来、親中派が大半を占める800人の選挙委員による間接選挙で、選挙委員を選ぶ有権者は約710万人のうち22万人にとどまり、立候補には選挙委員100人以上の推薦が必要というシステムだったので、中央政府の意向に沿った親中派の人物が選出されてきた。
香港基本法では07年以降、行政長官選と立法会議員選で直接普通選挙を実施する可能性が示され、ようやく17年の行政長官選から直接選挙が可能になるが、選挙制度の具体的内容は中央政府が香港基本法を解釈した内容から検討され、決められていくことになる。
24日、梁振英行政長官は沙田(シャーティン)の公立学校で行われた施政諮問会に出席し、李飛主任の愛国愛港発言を引き合いに出し、「香港の公務員は愛国愛港が任務。一部の香港人は国家意識が薄弱だ」と述べたのに対し、民主派は「愛国愛港の線引きを法令で明解に説明せよ」と激しい抗議デモを展開。香港基本法に基づく直接選挙についての解釈説明責任に頭を悩ませている。
梁長官は、昨年7月に就任する前後から不正建築疑惑で支持率が低迷し、今年10月、民主派系の「香港電視」無料テレビ放送不許可問題で大規模デモも発生して11月中旬の支持率(香港大学世論調査)は22%と最低ラインを行き来している。