朝鮮大元幹部逮捕、安保強化へスパイ防止法を


 日本を経由して韓国でスパイ工作を行う。そんな北朝鮮の工作活動がまた露見した。都内在住の朝鮮大学校の元幹部が韓国にいる北朝鮮の工作員に指示や支援を行い、警視庁公安部に逮捕された。

 「スパイ天国・日本」を白日の下にさらす事件だ。看過すれば、わが国のみならず東アジアの平和に支障を来す。スパイ防止法の制定が焦眉の急だ。

韓国内の工作員に指示

 元幹部は、2000年頃から工作活動に従事していた。北朝鮮の情報機関「225局」の指令を受け、韓国内の工作員に大統領選の情勢を報告したり、総選挙で親北政党を支援したりするよう指示していたという。

 工作員は韓国ですでに国家保安法違反で実刑判決を受けている。だが、わが国にはスパイ活動を取り締まる法律がない。元幹部は詐欺容疑で逮捕された。

 これまでのスパイ事件も同様のことがあった。例えば、山形県温海町(現鶴岡市)の北朝鮮スパイ潜入事件(1973年)では、工作員は出入国管理令違反で逮捕されたものの、初犯には執行猶予が付くため、押収された無線機などのスパイ用具を持って新潟港から「万景峰号」で堂々と帰国した。

 元工作員は「日本には簡単に侵入し、捕まっても微罪だから安心して活動できる」と米議会で証言している。文世光事件(74年)では北朝鮮の工作機関が日本国内で在日韓国人を訓練し朴正熙大統領(当時)暗殺を企図、陸英修夫人らが射殺された。

 また韓国当局が摘発した辛光洙事件(85年)では、工作員が拉致した日本人になりすまし、韓国に渡ってスパイ活動を行っていた。日本人拉致は対韓工作と深く関わっていた。

 こうしたスパイ工作が今も日本国内で繰り広げられている。今回の事件はその一端を露見させたと言える。北朝鮮の核・ミサイル開発にも日本から盗み出した科学技術が使われているとの証言がある。

 スパイ工作は北朝鮮だけではない。昨年12月、在日ロシア大使館付元武官が陸上自衛隊の元陸将に内部資料の戦術教本を漏洩させた容疑で書類送検された。12年には在日中国大使館員が虚偽の身分で外国人登録証を取得し、工作活動をしていたことが明らかになった。

 スパイ活動は他国では死刑となることもある重大犯罪だ。ところが、わが国ではスパイ防止法がなく、それで治安当局は適用できる法令を総動員してスパイ活動を取り締まってきたが、それも限界で、事実上野放しにされてきた。今回の事件も韓国側の厳しい取り締まりを避けるため、日本を中継拠点にしていたとみられている。

 日韓間では北朝鮮の核実験やミサイル発射を受け、安保協力の基礎となる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結問題が浮上している。同協定は防衛の秘密情報を交換する際、漏洩を防止する仕組みを定めるものだ。それが韓国では厳しく、わが国では甘いというのでは協定に穴が開く。

平和を脅かす活動封じよ

 スパイ防止法を制定し、平和を脅かすスパイ活動を封じる。東アジアの安保にも不可欠だ。

(2月9日付社説)