リビア軍事介入で「説得力のある説明」求め慎重姿勢を示すNYT紙

◆後手に回る米の対応

 「アラブの春」で独裁政権が崩壊したリビアの混乱が収まらない。世俗的な民族派とイスラム勢力が東西に分かれて対立、内戦状態にあるからだ。その混乱に乗じて、過激組織「イスラム国」(IS)がリビアへの侵入を進めている。

 リビアのISの勢力は最新の推計では5000人とみられている。地中海岸の油田地帯などで支配地を拡大しており、欧米諸国のIS掃討への軍事介入が間近という見方も出ている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)1月26日付は、社説「リビアでの対イスラム国の新戦線を開く」で、連邦議会での十分な議論が行われないままの軍事介入に対し「非常に問題」と慎重な見方を示した。

 同紙は、「新たな軍事介入で戦争が大幅に拡大し、大陸の他の国に容易に拡大する可能性がある」と軍事介入に否定的だ。

 米国はイラクとシリアに地上軍を派遣しないという方針の下、一昨年、イラクとシリアでISを標的に空爆を開始した。ところが、昨年イラクの首都バグダッドに近いラマディをISが奪取すると、方針を転換。イラク兵訓練のための米兵を増員、特殊部隊を派遣するなど、対応は後手に回っている。両国で戦闘への直接的な関与を強めている中でのリビアへの介入に慎重になるのは理解できる。しかし、オバマ大統領の「犠牲の大きい地上戦」への拒否が、イラク、シリアでの混乱を長引かせ、ISのイラクとシリアでの成長につながったことを考えれば、現状のままでは、ISがリビアにさらに深く浸透し、勢力を増すのは間違いない。

◆地上軍派遣に警戒感

 米政府は4日、ISは「依然重大な脅威」とした上で、イラク、シリアでの「兵力は減少した」と主張した。その一方で、リビアのISは増加したとみられている。

 空爆や地上からの攻撃を受けてISがイラクとシリアで支配地を失っているのは確かだ。それに応じて拠点をリビアなどに移していると指摘されている。フランスや米国などでのISシンパによるテロも、その流れの中で出てきたものだろう。

 「政治的内紛と民兵同士の戦闘が、2014年にイスラム国がリビアに侵入する道を開いた」(NYT)のは確かだ。ダンフォード統合参謀本部議長は、米軍がISへの「断固とした対応」を求めていることを明らかにしている。ダンフォード議長は、リビアでIS戦闘員の細胞組織を攻撃すれば、北アフリカ、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)のIS同調者との間に「くさびを打つ」ことができると主張している。それに対しNYT紙は「合理的な目標」と一定の評価を示しながら、「軍当局者は、達成可能な説得力のある説明をすべきだ」と依然、慎重だ。

 「空爆を行えば、イラクとシリアでそうであったように、情報を集め技術的な支援を提供するために地上軍を派遣したくなる」と空爆が地上軍の派遣につながることに強い警戒感を持っているようだ。

◆介入遅れ事態が悪化

 だが、イラクで軍事教官や特殊部隊を派遣したのは、オバマ政権の対IS戦略が奏功せず、方針の修正を迫られたためだ。IS掃討後の受け皿を作っておかなければならないことは言うまでもないが、犠牲を恐れ介入を遅らせたことにより、事態がさらに悪化し、犠牲をさらに増やすという皮肉な結果が、シリアとイラクで起きている。

 国連は、民兵組織をも取り込んだ民族派とイスラム勢力の和解に取り組んでいる。1月には、統一政府の設立で合意したものの、「ほとんど実体がない」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル=WSJ=1月18日付電子版)のが実情だ。

 実質的な統合政府の樹立を急ぐべきだが、時間がかかる合意を待っていては、ISに浸透するための時間を与えることになるのは間違いない。WSJは、イラクで示したように、テロ組織の居場所はリビアにないことを明確に示しておくべきだと主張する。

 「NATO(北大西洋条約機構)が空爆し、必要ならばそれとともに限定的な地上軍を送れば、西側は対岸にこのような脅威があることを受け入れることはないという重要なシグナルを送ることができる」という主張には説得力がある。

(本田隆文)