サウジ王家が絡む不祥事続く

聖地メッカで事故多発

 サウジアラビア王家や外交官らが絡む不祥事が続発している。薬物密輸や性的虐待、集団強姦(ごうかん)などだ。サウジでは、聖地メッカ近郊で大巡礼(ハッジ)中の巡礼者らが将棋倒しになり死亡、メッカの「大モスク」工事中にクレーンが倒壊して107人が死亡した。そのほかにも、イスラム教の守護者を自任する同国の印象悪化を招く事件が多発している。(カイロ・鈴木眞吉)

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昨年のイスラム教の大巡礼で、サウジアラビアの聖地メッカ近郊の「悪魔の石柱」に向けて石を投げる儀式に向かう巡礼者の行列=2014年10月撮影(AFP=時事)

 レバノン当局は10月28日までに、首都ベイルートの国際空港で、覚醒剤アンフェタミン系のカプタゴン錠剤2㌧を個人所有機で密輸しようとしたサウジ王子ら5人を拘束した。

 一方、米国人女性3人が10月22日、米ビバリーヒルズの邸宅で開かれたパーティーで3日間拘束され、性的虐待を受けたとしてナワフ・ビン・スルタン・ビン・アブドルアジズ・アルサウド王子(29)をロサンゼルスの裁判所に提訴した。

 9月には、ニューデリー駐在のサウジ外交官がネパール人女性の家政婦2人を集団強姦した疑惑が浮上したが、出国して逮捕を免れた。

 しかし、サウジで最近起きた不祥事の中で最大のものは、1608人もの死者を出した巡礼者の将棋倒し事件だろう。

 この死者数は、サウジ当局が事故発生の2日後に769人死亡と発表して以来、最新の数を発表しない中、AFP通信が各国当局の発表を集計して明らかにしたもので、各国は犠牲者数を公表しないサウジ政府に批判を強めている。

 同様の事件が過去、2006年1月と04年2月、1990年にも発生、各々345人、244人、1426人が死亡した。今年9月11日には、メッカのカーバ神殿を囲む「大モスク」の工事中にクレーンが倒壊、107人が死亡、238人が負傷したばかりだ。

 464人もの大量の犠牲者を出したイランの最高指導者ハメネイ師は9月27日、「サウジは責任を認め、世界のイスラム教徒や遺族らに謝罪すべきだ」と主張、ロウハニ・イラン大統領は28日の国連総会で「サウジは無能だ」と批判した。

 同国への国際的な批判を高めた事件はそれだけではない。10月10日には、首都リヤドの女性が、雇っていたインド人家政婦(58)の右腕を切断したことが明るみ出た。家政婦は、給料が支払われず、十分な食事も与えられなかったことに抗議していたという。

 昨年5月には、首都リヤドに出稼ぎに行ったフィリピン人家政婦(23)が、雇用主の母親から熱湯を背中や腕、足に浴びせられ、大やけどを負う虐待を受けた。

 さらに、サウジ政府は10月9日、英国人作家サルマン・ラシュディ氏の「悪魔の詩」翻訳本の再出版をめぐり、チェコ大使を外務省に呼び、同書の出版停止を求めた。

 悪魔の詩をめぐっては、ホメイニ師がラシュディ氏に死刑を宣告、各国の翻訳者・出版関係者を標的にした暗殺事件が発生した。日本では、同書を翻訳出版した五十嵐一筑波大助教授が1991年7月、殺害された。

 サウジは、イスラム教の聖典コーランの厳密な適用で知られるワッハーブ派主体で建国された。サウジ人が起こしたこれらの出来事は、「全ては神の予定による」として、人間の責任を曖昧にするイスラム教信仰の問題点を浮上させたのみならず、コーランと預言者ムハンマドの言行録「ハディース」から導き出されるイスラム法がいかに女性などの人権を踏みにじる時代錯誤的なものであるかを示している。