防空網の盲点と教訓

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 最近、韓国では北朝鮮の無人機が大統領官邸上空まで侵入、写真を撮るなどしたことが判明し、大きなショックを与えた。3月24日の京畿道坡州市をはじめ、同31日は黄海の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)に近い白翎島の軍駐屯地付近、4月6日は休戦ライン南方130㌔の江原道三陟市の山地でも墜落無人機が発見された。

 韓国の東と西、そしてソウルの心臓部である大統領官邸の上空まで無人機が侵入したのは、今まで北朝鮮の無人機が頻繁に韓国領空に侵入し偵察飛行を行っていたという証拠である。

 小型無人機は防空レーダーの画像スコープ上に鳥と同じように映るケースがある。発表によると、北朝鮮の無人機はレーダーに映りにくい素材の機体であるともいう。

 しかし高度300㍍で低空飛行する無人機のプロペラによる騒音は誰でも聞こえるし、機体は肉眼で十分確認できる。戦史の教訓には「作戦失敗は容赦されるが警戒失敗は容赦されない」とある。完璧な警戒態勢は先端装備だけに頼らず、肉眼監視が加わることによって隙間のない防空監視態勢を整えることができる。結果的に北朝鮮は韓国軍の防空網に穴を開けたといえる。

 ちなみに1987年5月、西ドイツ(当時)の少年がセスナ機を操縦して旧ソ連の防空網を突破しクレムリン広場に着陸した例がある。先端の防空装備で領空を監視しても小型無人機を捉えるのは限界があるかもしれない。

 今回の事態は先端装備だけに頼らず人間の肉眼監視こそが防空システムの穴を埋めてくれる!という教訓を示している。

 さらに、無人機を発見したのは軍隊ではなく民間人である。去る1996年、韓国の東海岸に侵入し、座礁した北朝鮮の潜水艇を最初に発見したのも民間人だった。海岸線の水際には隙間なく軍の監視哨所がある。にもかかわらず軍隊でなく民間人が発見したのは、軍の警戒態勢の盲点を敵に突かれたという証拠である。

 もとより巨大組織の正規軍が小規模非正規軍の「非対称戦」(ゲリラ戦)に負けた先例は多い。例えば1975年、米軍はベトナムで長期ゲリラ戦に巻き込まれ敗者のように撤退した。

 その後、中国軍がベトナム軍と戦って撤退。1980年代には、旧ソ連がアフガニスタンで長期ゲリラ戦に巻き込まれて撤退した後、崩壊し分裂した先例がある。

 先端装備だけに頼ると巨大な正規組織も負ける恐れがある、という戦史の先例と教訓を忘れてはならない。最先端の装備を持っていても、それを動かして警戒・作戦の成否を決めるのは人間の知能と思考であるためだ。

(拓殖大学客員研究員・元韓国国防省北韓分析官)