行き詰まる米の中東政策
シリア内戦 反アサド派支援奏功せず
ロシアの介入で終結に展望か
米国の中東政策は、シリア内戦をめぐる対応、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」対策、イスラエル・パレスチナ紛争という局面で危機が深まる中、大きな困難に直面している。米国の中東での行き詰まりを突くように、ロシアがこれらの局面で、新しい働き掛けを行い、中東での影響力を拡大しつつある。(ワシントン・久保田秀明)
イスラエルも対露接近
シリアでは2011年以来、アサド政権と反体制派勢力の内戦で、約25万人の死者を出してきた。反アサド勢力の間でも、「自由シリア軍」などの穏健派とアルカイダ系ヌスラ戦線やISなどの過激派が対立する複雑な状態だ。米国はシリア内戦には、穏健派を訓練して、ISと地上戦を戦わせるというアプローチを採用してきた。しかし、これは穏健派がアサド政権とISの両方から攻撃されるという状況を生み、その戦略自体に根本的欠陥が内包されていた。米国はアサド大統領退陣を求めているが、アサド政権を打倒する軍事行動を行っているわけではない。このため、米国は内戦終結に具体的貢献はしておらず、大量の難民流出など内戦の結果への対応に追われている。
こうした中、ロシアは8月から、イラン、イラクと連携し、アサド政権を補強する形でシリア内戦に介入し始めた。アサド大統領自身、ロシアの介入を要請した。9月30日からはシリアの反体制派拠点への空爆を開始し、10月には巡航ミサイル攻撃、クラスター爆弾攻撃など攻撃をエスカレートさせている。追い詰められていたアサド政権の軍隊は各地で攻勢を強めている。
プーチン大統領は10月17日、特別代理としてボグダノフ外務次官をカイロに派遣しシリア反体制派指導者と会談させたが、内戦の政治的解決について協議したとの見方が強い。シリア内戦をロシアに都合のいい条件で終わらせる動きとも見れる。ギリシャや東欧諸国などはシリア難民の流入に苦慮しており、どんな形であれ内戦終結を希望し、ロシアの役割に期待し始めているもようだ。
イスラエル・パレスチナ紛争では、歴代の米政権はイスラエルを同盟国として最重視するスタンスで、対応してきた。しかしオバマ政権では、イランとの核協議をめぐる路線対立でイスラエルのネタニヤフ政権との関係が急速に悪化したため、紛争解決への仲裁役を果たすことはもはやできない。
半面、イスラエルとロシアとの関係が改善しており、イスラエルはロシアに兵器売却も行っている。オバマ政権への不信感の高まりが、イスラエルをロシアに接近させる要因になっていることは否定できない。ネタニヤフ首相は9月21日には、軍参謀を伴ってロシアを訪問し、中東での協力の可能性を議論した。イスラエルはシリアには介入していないが、アサド政権がシーア派過激組織ヒズボラに武器を供給していることを批判しており、アサド政権に影響力をもつロシアを味方につけることは悪くない選択なのだ。
米国は、米英仏独、アラブ諸国などと協力して、ISと戦うための有志連合を構築し、シリア、イラクのIS拠点に対する空爆を行っている。ただ、オバマ大統領は米地上戦闘部隊をISとの戦闘に投入することは頑として拒否しており、ISとの地上戦はシリア反体制派、イラク治安部隊を訓練し、それに依存する政策を進めてきた。米国は訓練した60人前後のシリア反体制派を2回シリアに投入したが、第1陣はヌスラ戦線に待ち伏せされてほぼ壊滅。第2陣も離脱者が相次ぎ、過激派に武器、弾薬を奪われるなど、まったく成果を上げていない。
米政府はシリアでのロシア軍の空爆について、「ISへの攻撃は僅(わず)かでほとんどは米国が支援してきた反体制派勢力に向けられている」(アーネスト・ホワイトハウス報道官)と非難している。ロシアを含む旧ソ連諸国からは約2000人の過激派がISに参加したと推計されており、ISがロシアにとっても脅威であることは間違いない。
プーチン大統領は9月28日のニューヨークの国連総会演説で、ISと戦うためにイラン、イラクも含めた大連合を結成する構想を提案した。この構想は、アサド政権を補強してシリアを安定させることを基本にしており、米国のIS対策とは対立する内容だ。またスンニ派過激組織であるISと戦う上で、イラン、シーア派主導のイラク、シーア派系の少数派であるアラウィ派のアサド政権とシーア派の連携を基盤にしている点でも、米路線とは相容れない。しかし、米国の中東政策が手詰まり状態のいま、ロシアがIS対策を名目に中東での影響力を拡大し、米国と対決しようとしていることは間違いない。