国連演説に共産主義者ゲバラ賛美で筆が滑った反安保法論調の東京
◆「救いがたい」に相槌
「週の初めに考える」。東京新聞にそんなタイトルの社説がある。東京がどう考えているのか、ときどき目を通すが、朝日よりも左シフトで何が書かれていてもさほど驚かない。が、9月28日付にはびっくりさせられた。ゲバラへの憧憬が連ねられていたからだ。
ゲバラとはアルゼンチン生まれの伝説的な革命家だ。カストロとともにキューバ革命を成功させた後、アフリカ各地で革命闘争に加わり、1967年に南米ボリビアで処刑された。わが国でも70年安保時、過激派が英雄に祭り上げた。「イスラム国」と同じとまでは言わないが、テロリストに変わりはない。
東京の論説委員にオールド左翼がいるのか、それともゲバラの正体を知らない心情左翼がいるのか、国連総会をテーマにする社説は恥じることなく見出しに「ゲバラたちが見た夢」と掲げ、こう言う。
「今年も国連総会で始まる各国首脳の演説に注目します。冷戦後の世界に混沌が満ちている今だからこそ、私たちは聴きたい。目先の駆け引きを超越した純粋な理想の演説を聴きたいのです」
そんな純粋な演説がゲバラの国連演説(1964年)だというのだ。ケネディやオバマ米大統領の「核軍縮演説」も取り上げるが、ゲバラを美化する話の端(つま)にすぎない。「理想主義者ゲバラの純粋さをひときわ輝かせた名言」とする「キューバ危機のさなか前衛の青年たちを鼓舞した訓話」で社説を結ぶ。
「もしも私たちが夢想家のようだと言われるならば、救いがたい理想主義者だと言われるならば、できもしないことを考えていると言われるならば、何千回でも答えよう。それはできるのだ、と」
◆異様さ気付いた毎日
実に格好よい演説で、東京は理想とするようだが、各国の国益がぶつかり合うのが国連総会の実態で、理想だけを求めるのはどだい無理な話だ。そのことは今年の国連総会でシリア難民や南シナ海問題を巡って、つばぜり合いが演じられたことでも分かる。そもそもキューバ危機をもたらしたのはキューバ自身だ。ゲバラが理想論をぶつ一方で、ソ連から核ミサイルを持ち込み、米本土を攻撃しようとしていた。そんな二枚舌はコミュニストの常套だ。
社説が書く「前衛の青年たち」とは共産党員のことだが、彼らに向けた訓話に鼓舞されている東京も同類というほかない。とうてい真実を追求する新聞人とは言えまい。
東京の異様さは毎日の布施広専門編集委員をもってしても目に余ったようだ(30日付「布施広の地球議 トラウマ報道に疑問」)。布施氏が取り上げるのは、東京10日付(中日新聞は9日付)の特集と12日の大型社説で、その内容に「深く首をかしげた」という。
テーマは湾岸戦争(91年)時の日本の貢献についてだ。日本は人的貢献をせず、総額130億㌦もの金銭支援をしたが、イラクから解放されたクウェート政府が米紙に載せた感謝広告に日本の名がなく、日本政府はショックを受けたというのが一般的な事実関係だ。
ところが東京は、広告は米国防総省が提示した多国籍軍の参加国リストをそのまま載せたもので、日本の名がないのは当然。日本政府はこの一件をあえて明確にせず、ショックによって形成された「湾岸戦争のトラウマ」を利用して人的な国際貢献を拡大してきたと断じている。
さらに「安保法案に通じるだまし」との見出しで、「『トラウマ』を逆手にとって焼け太りを図る様は、まともな政府のやることではない」とも批判した。これに対して布施氏は「この論法には根本的な疑問を禁じえない」と言う。
◆東京は革命に下心?
湾岸戦争を前線で取材した布施氏は「日本の対応に多くの問題があったのは明白」で、広告だけの話ではない。最前線の産油国サウジアラビアの外務省幹部から「金ならサウジにもある。日本に空母はないのか」と迫られたと言う。
そのうえで布施氏は「『トラウマ』が政治的に利用されたにせよ、それを『だまし』と言えるかどうか」と東京の報道姿勢を怪しんでいる。
最近の東京の安倍批判は単に理想主義に陥っているからか、それともゲバラのように革命への下心があってのものか。いずれにしても、まともな新聞のすることではない。
(増 記代司)





