辺野古作業を1カ月中断、政府との集中協議開始
普天間移設の原点で食い違い
菅官房長官、一日も早く危険性除去を/翁長県知事、ヘリ事故は「タイムリー」
政府は10日、米軍普天間飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)のキャンプ・シュワブ沖(名護市辺野古)移設の埋め立て工事に向けての作業を中断した。1カ月の作業中断の間、政府は沖縄県と移設に関する集中協議に入った。12日には翁長(おなが)雄志(たけし)知事と菅(すが)義偉(よしひで)官房長官が第1回の協議をしたが、移設の原点での食い違いが改めて明確になったにすぎず、解決に向けての糸口は簡単に見つかりそうにない。(那覇支局・豊田 剛)
政府は冷却期間設け相互理解深める意図
12日夕方、県庁で行われた1時間の会談では翁長知事による抑止力の持論にほとんどの時間を費やした。菅官房長官はとことん聞き役に徹した。会談後、「忌憚(きたん)なく意見交換したが、出発が違うので距離がある」と本音を漏らした。
翁長知事は「沖縄だけにこれだけ基地を押し付け安全保障を頼るのはおかしいのではないか」と従来の発言を繰り返した上で、「海兵隊の機動性、即応性、一体性の面から沖縄でなければいけない理由はない」などと述べ基地負担軽減を求めた。
普天間飛行場移設の原点については、政府と宜野湾市が1996年の日米合意に基づく「一日も早い危険性除去」を主張しているのに対し、翁長知事は「戦後強制収用されたこと」と強調。安全保障の議論を踏まえずに「世界一危険と言われる基地が老朽化したからもう一度お前たちのところで出せというこんな理不尽な話はない」と感情論に徹しているため、議論は入り口にすら入っていない印象だ。
16日の中谷元防衛相との会談でも安全保障の認識の相違が浮き彫りになった。知事は記者会見で「沖縄の地政学的重要性を強調して基地負担を強いている」と政府の姿勢を厳しく批判、「沖縄を領土としか見ていないんじゃないのか」と、植民地意識を思わせる発言をした。
翁長知事の被害者意識ならびに政府に対する対等意識はこれ以外の言動でもうかがうことができる。
12日夕の翁長・菅会談の直前、「米軍ヘリ墜落」という情報が流れた。会談後の記者会見で事故の受け止めについて聞かれた翁長知事は、官房長官がちょうど沖縄に視察に来ている中で、「『タイムリー』にそういうこと(事故)が起きた」と述べ、負傷者に対するお見舞いの言葉は一言もない。
菅官房長官は会見に先立ち、USJが建設候補地としている本部町の海洋博公園、今年3月に返還された西普天間住宅地区の視察などを行った。米軍施設の早期返還・跡地利用を含めた沖縄発展に向けて尽力する姿勢を示した。こうした菅氏の一連の視察の感想を問われた翁長知事は「『ご苦労様でございます』と言っただけ」と上から目線の一言を述べただけだった。
集中協議は「政府と沖縄県は角を付き合わせるような状態だったが、工事を中断して静かな環境で話し合うことで、沖縄県と政府の間でお互い理解を深める」(菅官房長官)ことを目的としている。1カ月間で政府と県のせめぎ合いが続く。
県としては、知事の私的諮問機関である第三者委員会が前知事による辺野古埋め立て承認に「瑕疵(かし)あり」と結論付けた報告書を後ろ盾にする。知事は「1カ月間は承認取り消しの判断に踏み切らない」と明言している。またこの間、県はこれまで米軍に要請していた辺野古沖の臨時制限区域内への立ち入り調査を実施し、環境影響の問題で攻めたい構え。
これについて野党側は「報告書の内容はあまりにも稚拙。万が一、取り消したとしても裁判闘争になるが、県にまったく勝ち目はない」という冷ややかな見方を示す。うかつに取り消し判断ができない知事が時間稼ぎをしながら、移設反対の支持者を懐柔する狙いも透けて見える。
一方、政府としても、安保法制、川内(せんだい)原発の再稼働、沖縄メディアに対する批判的な発言などで、メディアが政府批判に使う材料が多いこともあり、「冷却期間を置いて沖縄に寄り添う姿勢を見せるのはいいことだ」(自民党県連)と評価する。
協議は週1回のペースで開く予定で、3回目は東京で安慶田(あげだ)光男副知事と杉田和博官房副長官が協議、4回目は29日頃に菅氏が来県し知事と再び会談する。最終回は9月7日前後に東京で関係閣僚を交えて開催する予定。隔たりが埋まる見通しは極めて低い。






