政府観光政策の後押しで増える中国人客のマナー提起した「新報道」
◆訪中団追う報ステS
円安メリットのうれしい悲鳴が観光業界から聞こえるようになった。ただ、その悲鳴も客数がサービスの対応能力を超えてしまうと本物の悲鳴になりかねない。
日本政府観光局の統計によると、4月に日本を訪れた外国人(訪日外客数)は176万4000人で、前年比43・3%増。訪日旅行促進事業を進める政府は、2020年の訪日外客数目標2000万人を2500万人に上方修正して、官民挙げての観光客誘致に拍車をかけている。
その多くの割合を中国人が占めるわけだが、24日放送の報道番組ではテレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」が観光客誘致の訪中団に、フジテレビ「新報道2001」が中国人観光客のマナー違反に焦点を当て、利と害で視点を分けた。両番組とも、23日に北京・人民大会堂で行われた二階俊博自民党総務会長が率いる3000人規模の観光業関係者らの訪中団と習近平主席ら中国側との日中観光交流行事を取り上げている。
習主席のあいさつシーンでは「中国は中日関係を発展させることを重視している。中日関係は幾度もの風雨を経験してきたが、中国側の基本姿勢は終始変わっていない」との発言を流した「報ステS」と、「侵略の歴史を歪曲(わいきょく)美化しようとするいかなる言動も中国とアジアの被害国の国民は決して許さない」の部分を扱った「新報道」で違いを見せた。前者は冷却化した関係改善への期待感、後者は警戒感の印象を残す引用だ。
訪中団に同行した「報ステS」は、習主席の「異例な厚遇」を再三強調。中国の世界遺産・故宮に一般公開前の午前7時半に訪中団だけ入場できたこと、他の予定が入っていた人民大会堂を訪中団のため中国側が貸し切ったこと、そこに登場した習主席が二階氏から安倍晋三首相の親書を受け取ったことなど、中国側の対日姿勢の変化と捉えていた。
◆新報道も「害より利」
実際は、「侵略歴史」を国家主席に説教されながら、必死に中国側に頼み込んで客を得ようとする日本の自治体・業界の一コマであるが、背に腹は代えられない地方経済の事情もあろう。高橋はるみ北海道知事ほか福島県、青森県など自治体職員らの商談風景など、観光客を呼び込もうとする地方の熱心なアプローチを映していた。
「新報道」は中国人観光客のマナー違反を扱ったが、受け入れ側には覚悟のいる問題だ。既に国際問題化しており、タイの寺院でトイレ以外で用を足すので拝観を拒否した例や、パラオでは海にゴミを捨てる環境問題からチャーター便を減らした例を指摘したが、聖地や美しい海など観光地たる根幹を汚し、現地が我慢の限度を超えてしまったのが分かる。
日本でのマナー違反については、ゲストの落語家の立川談笑が小噺(こばなし)を披露するなど、笑いの種にまだ留まっている。中国人観光客の人気スポット、北海道小樽市では歩きたばこや吸い殻のポイ捨て、団体客が喫茶店に他店で買っておおっぴらに持ち込んだシュークリーム、和食店に持ち込んだエビやマグロなどの刺し身を食べる様子、セルフで無料提供する飲料水を次々水筒に入れる行為などだった。
が、今のところ観光地の関係者のコメントは、迷惑顔ながら「害」より収益の「利」のため許容していた。出演者の山本一太参院議員も「ポジティブに捉えないといけない。今のペースだと400万人の中国人が日本に来て、(中国)共産党のプロパガンダと違う、日本っていい所だと10人に話せば4000万人に伝わる。日中関係の改善に繋(つな)がる」と述べた。
しかし、大声で「中国人はこんなものだという決めつけだ」と、番組批判をしたのが朱建栄東洋学園大学教授。番組の他のコーナーで扱った「自己主張の強い中国」を、同氏も遺憾なく発揮していた。
◆適正定員を割り出せ
これに、ジャーナリストの富坂聰氏は「中国と付き合うときに大事なのは人数を増やすという拡大はあまりよくないと思う。一人の単価を上げていってもらうことの方が大事だと思う。人数を増やすとキャパシティーの問題も出てくるので双方にストレスがたまる」と、量を追う観光政策に疑問を示している。
的を射た指摘であろう。数を追いかけて観光現場が対応できず、大勢の中国人観光客に不満が起きたときの「自己主張」が恐ろしい。番組では街ぐるみでマナー違反の改善に努めている京都・嵐山の成功例も紹介されたが、一方で満足な観光のため適正な「おもてなし」ができる数、定員も各地で割り出していかなければならないだろう。
(窪田伸雄)