政府の財政健全化に各紙は「成長頼み」批判より景気失速を心配せよ

◆4紙論評で揃い踏み

 政府が6月末に策定を目指す財政健全化計画について、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)の議論が本格化している。19日の同会議では、伊藤元重東大大学院教授ら民間議員が社会保障など分野ごとの論点整理を提示し、歳入改革として資産課税の見直しを提言した。

 内閣府はこれまでに、財政健全化の試算を公表。経済再生のケース(中長期的に経済成長率は実質2%以上、名目3%以上、消費者物価も中長期的に2%近傍で安定的に推移)でも、2020年度までに政策経費を借金せずに賄える基礎的財政収支の黒字化は実現できず、9・4兆円不足するという。

 12日の同会議では、別の民間議員が20年度の基礎的財政収支の赤字9・4兆円のうち、歳出削減による穴埋め額を5兆~6兆円にとどめ、残る赤字は税収などの歳入増によって補うよう主張したという。歳出削減ありきでは経済失速の恐れがあり、景気拡大による税の自然増収の低下を招きかねないからである。

 さて、最近のこうした財政健全化の議論について、社説で論評を掲載したのは毎日、読売、日経、産経の4紙。

 見出しを並べると、毎日(12日付)「成長頼みに逃げ込むな」、読売(16日付)「成長頼みが過ぎては危うい」、日経(同)「痛み分かち合う歳出削減から逃げるな」、産経(19日付)「歳出改革の道筋を明確に」――。

 見出しの表現こそ多少の違いはあるものの、意味するところは、ほぼ同じである。すなわち、経済成長率の高めの想定は「かなり楽観的」(読売)で、「副作用は大きい」(日経)という懸念であり、歳出削減が疎かになりかねないという心配である。

◆10%再増税見直しを

 財政再建の手段は、日経が指摘するように、「成長による税収増、歳出削減、増税の3つしかない」。

 しかも、安倍政権は現在、昨年4月の消費税増税で腰折れした経済の立て直しの最中であり、より大きくはデフレ脱却を目指した、経済の好循環の再構築中である。

 それゆえ、中心的眼目は成長重視の政策遂行であり、それによって、経済、より正確にはGDP(国内総生産)を拡大し、税の自然増収を図り財政健全化を進めようとしているわけである。

 確かに、内閣府試算の経済再生のケースの前提条件である成長率の名目3%以上、実質2%以上などという状況は、17年4月からの消費税再増税を勘案すれば、その実現はなおのこと難しくなることが予想される。

 その意味では、確かに各紙が指摘するように、「想定通りの成長率が確保できないリスクがある」(読売)ことは十分に予想される。

 読売は、「かつて小泉政権が『名目2・5%以上の成長』を掲げ、財政再建に乗り出したが、景気の失速で税収が落ち込み、頓挫した。同じ轍(てつ)を踏んではなるまい」としたが、そう強調するのなら、成長政策を進める間は、景気の失速を招くような政策(増税や歳出の削減)は極力避けるべきで、17年4月の10%への再増税も当然取りやめるべきと言うべきではないだろうか。

 同政権で「2・5%成長」が頓挫したのは、そう掲げながら、同時に「新規国債発行30兆円以下」にこだわり、過度にデフレ政策を進めたためで、その後の景気回復を遅らせる結果ともなったのである。「成長頼みが過ぎては危うい」のは確かだが、それ以上に景気、財政健全化の両面で「歳出削減、増税頼みが過ぎては危うい」のである。

 読売や産経などが指摘するように、安価な後発医薬品の普及率の向上や、年金給付の抑制、医療費の自己負担拡大など特に社会保障費の効率化は「しっかり進めることが肝要」ではあろう。しかし、諮問会議の民間議員が言うように、それが景気の失速を招くような過度な削減は慎むべきであろう。

◆検証すべき黒字目標

 さらに加えるなら、20年度の基礎的財政収支黒字化という目標自体について、死守しなければならない必然的理由があるのかどうか、新聞は検証すべきではないのか。一つの目安程度なら、そうした硬直的な対応でなく、GDP比での赤字を着実に減らす傾向を定着させるという思考の方が現実的であり、健全化の意思も示せ、景気への悪影響も少ないのではないだろうか。

(床井明男)