官邸ドローン事件で犯人ブログを丸写しした文春、新潮のお粗末さ

◆“労せずして”記事に

 首相官邸の屋上で、小型無人機「ドローン」が見つかった事件は、新技術と規制という新しい課題を突きつけた。ドローンは搬送、測量、撮影などから災害時の調査、人命救助に至るまで広範囲に利用できる可能性を秘めた技術だ。しかし、今回のように悪用もできるため、規制や対策が急がれている。

 とはいえ、技術は最終的にはそれを使う人間に委ねられる。今回の事件はいかなる人物がドローンを使って官邸を“襲撃”したのかを見ることで、今後の対策に生かしていかなければならない、という課題を残した。

 週刊誌は早速、容疑者・山本泰雄(40)の人物像に迫っている。

 ドローンが官邸の屋上で発見されてから官邸警備隊、警視庁公安部が血眼になって犯人像の割り出しを行っていた。テロリストや過激派、それに放射性物質が検出されたことから反原発活動家などがリストに挙がった。しかし、犯人像は輪郭さえ掴(つか)めない。

 ところが、拍子抜けにも山本容疑者は自ら出頭してきた。さらに、犯行に至る一部始終を自らのブログに綴(つづ)っていたため、動機や犯行の経路などが“労せずして”捜査当局の知るところとなる。

 週刊文春(5月7・14日号)は「反原発で官邸襲撃!『ドローン男』の正体」の記事をトップで報じている。同誌が取材しているのは、「男子同級生」「航空自衛隊関係者」「再就職した会社の社長」「家族付き合いのある知人」らだ。それ以外は山本容疑者のブログからの引用である。

◆ブログは真実なのか

 週刊新潮(5月7・14日号)も似たり寄ったりで、最初から「官邸『ドローン四十男』気弱なブログ原文公開」と銘打って、ブログの内容を紹介する体裁だ。

 各誌が引用したブログを見れば、動機や犯行の経路は分かる。だが、いずれも、これは山本容疑者の言葉であって、裏付けが取れたものではない。確認されないものを、「犯人がこう書いている」と丸写しして記事にするのは、いささか「手抜き」の謗りを免れないと思うがどうだろうか。

 捜査当局は当然、ブログ内容と実際の行動とを逐一チェックしているはずだ。容疑者が“盛った”話もあるだろうし、書かなかったこともあるかもしれない。それを週刊誌は簡単に紙面に載せるのはいかがなものか、という話である。

 今後、ブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に犯行予告や犯行声明などが出てきたとき、慎重に見極める姿勢が必要だ。それに踊らされては、犯人の思う壺にもなり、撹乱されることにもなる。

 話変わって、週刊新潮(同)が「総理の椅子が欲しくなった『菅官房長官』権力の階段」を載せている。第2次安倍政権を2年4カ月にわたって支えている「女房役」に焦点を当てたものだ。

 かつては「総理を支えるだけ」と黒子に徹してきた菅義偉氏が、最近は、「将来は総理に…」と水を向けられると、「否定せず、満更でもない様子」なのだという。

 同誌は菅氏の経歴をなぞり、強力な支援者を明かしながら、そのうちの「成光舎」という会社を取り上げている。同社は菅氏が代表を務める「自民党神奈川県第二選挙区支部」と「横浜政経懇話会」に「300万円以上を献金している」とし、同社長が「旧横山商銀信用組合(現横浜中央信用組合)の非常勤理事を務めたこともある在日韓国人の河本善鎬氏」だと書く。

◆菅氏特集は意図不明

 河本氏が成光舎の株式40%を保有していることから、「外国人資本の企業からの献金は道義的に問題あり」とされることに触れてはいるが、記事はそれだけで、別に菅氏の政治資金スキャンダルというわけではない。

 また、冒頭ではいわゆる「カジノ法案」で菅氏の選挙区である横浜が焦点になっており、企業や暴力団までが動きだして利権争奪戦が展開している様子を書いているものの、それに菅氏がかかわっているという内容でもなく、実に思わせぶりな書き方である。

 結局、記事は菅氏が官房長官にまで“出世”した一代記のような“よいしょ”に終わっており、いったい何の目的でこれをトップに持ってきたのか、同誌の意図が、いまひとつ読めない。菅氏にこうした「題材」があると手の内を見せただけなのか。

(岩崎 哲)