安保法制は事実上の憲法改正と言うなら改憲を問うべき「サンモニ」

◆ガイドラインに注目

 安倍晋三首相が訪米の途に就いた4月26日の報道番組では、日米首脳会談、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を控えたこともあり、防衛協力の指針(ガイドライン)再改定や環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方が一つの話題として注目された。

 NHK「日曜討論」やテレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」は、日米首脳会談・2プラス2の「影の主役は中国」とポイントを押さえた。「日曜討論」は、中国の力による現状変更の試み、アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設と、日米のガイドライン再改定、TPP交渉など太平洋を挟む大局的な情勢分析を加えた議論で有意義だった。

 27日にニューヨークで行われた2プラス2でガイドラインは再改定されたが、新ガイドラインのための安保法制について自民・公明の与党協議会は24日に合意を得ていた。これをTBS「サンデーモーニング」は、「バンドン演説と日中首脳会談 “安保法制”与野党合意」としてバンドン会議とともに扱ったが、出演者のコメントは懐疑的だ。

 米国に過剰にすり寄ると批判的な寺島実郎氏、中東での機雷掃海に反対する法政大学総長・田中優子氏、国会事前承認に疑念を呈した津田塾大学教授・萱野稔人氏らに続き、岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)は「与党協議がどんどん進んで歯止めの論議もされているが、もともとこの問題は事実上の憲法改正なんですよ。それから戦後の安保体制の大転換なんですよ…」と切り出し、一気に批判論を展開した。

 曰く、「これだけの憲法改正と安保体制の大転換を、わずか1年たたないんですよ、閣議決定から。あの時は集団的自衛権だった。それが、あっという間に自衛隊の活動範囲を広げている…」「…そのような議論は二つの国会をまたぐとか三つの国会をまたぐとか、じっくり時間をかけて国民的論議が必要な問題なんです…」などと捲(まく)し立てた。

◆改憲こそ国民的論議

 大型連休後に政府・与党は安全保障関連法案を通常国会に提出するが、与党絶対多数の前に遠からず成立するだろう。が、岸井氏が「事実上の憲法改正」と言うのならば、1年前の集団的自衛権行使容認論議の時に慎重派が唱えた「やるなら憲法改正で」という筋論が番組の中であってもよかったはずだ。

 もはや憲法改正は荒唐無稽な話ではなく、昨年6月の国民投票法改正で可能なテーマになっている。岸井氏が述べたように時間をかけた熟議を望むなら、改憲を問うのが一番適切である。

 憲法に自衛隊や安保法制の根拠規定をどう盛り込むか、改憲原案を衆参の憲法審査会で3分の2の賛成を得るには自公では足りず、それこそ与野党超党派で2国会、3国会またいで練り上げることになろう。そこで改憲案を発議し、国民投票にかければ本物の国民的論議が巻き起こる。

 政府が集団的自衛権行使を一部容認する憲法解釈で新しい安保法制を整備するのは次善の策であり、憲法の条文に起因する賛否二分する問題を解消するには条文を改正するのが最良である。ところが、改憲手続きが整ったのに今度は「やるなら憲法改正で」という声が出ない。やはり“できぬ相談”のうちに持ちかけたにすぎなかったのか?

◆巻き込まれ論に誘導

 続いてスタジオのやりとりは、司会の関口宏氏が「米国の力が衰えたところを補うという感覚でしょ」と岸井氏に問い掛け、「はっきり言ってそうとしか思えない」(岸井氏)、「じゃあ、米国がいつまで世界で一番であられるのか」(関口氏)、「そこがだんだん力が落ちてきたので、肩代わりとか場合によっては尻拭いをさせられる」(岸井氏)、「ということは米国と一緒に日本もどんどん…」(関口氏)、「戦場に行くということですから。…掃海をやっているところが戦闘地域になった途端にもうダメですよ。逃げられないから必ず攻撃され、応戦せざるを得ないから戦争になる」(岸井氏)、「困ったな」(関口氏)と、戦争巻き込まれ論に落としどころを持っていった。

 新ガイドライン・安保法制をめぐっては、「巻き込まれ論」は野党側の反対論拠で、これに対し与党側は平和のための戦争抑止効果を主張する。尖閣諸島など「離島防護」はその代表例だ。が、番組で戦争を未然に防ぐ抑止論に立った指摘はなく、司会とレギュラー出演の岸井氏によるやりとりを通した安保法制反対への世論誘導を印象づけた。

(窪田伸雄)