官邸ドローン侵入/機体操縦電波の遮断技術の開発求めた産経、日経

◆法規制を急げと各紙

 国家の中枢である首相官邸の屋上で小型無人ヘリコプター(ドローン)が落下していることが見つかった事件は、日本の危機管理やテロ対策警備などに重大な欠陥があることを浮き彫りにした。搭載容器から微量の放射性セシウムが検出されたドローンが見つかったのは今月22日だが、その後「官邸にドローンを飛ばした」として威力業務妨害の疑いで25日に逮捕された無職の容疑者(40)の供述から、ドローンを飛ばしたのは9日未明で、「反原発を訴えるため」であると分かった。他にも九州電力川内原発への侵入を計画していたことなどが分かるにつれ、こうした「悪意」への対策があまり取られていない深刻な実態が露呈した。

 官邸や警備当局はドローン侵入を全く察知できなかったが、それだけでない。ドローンは2週間近くも屋上に放置されていた。ドローンが微量でない放射性物質や爆発物、化学兵器を積載していれば、大惨事を引き起こす可能性も否定できない。早急な対応が急務である。

 各紙はこの問題を一斉に24日付で社説(産経は主張)で取り上げた。

 「警備の隙(すき)を突いた前代未聞の事件」(毎日)、「不安を感じさせる事件」(朝日)、「テロや犯罪に悪用されるのではないか、との懸念が現実のものに」(日経)――。まず、驚いたり不安に感じたり懸念したりして警備体制の問題に言及した。朝日は「安倍政権は危機管理を重視していたはずだ。しかし、その頭上は、あまりに無防備だった」と皮肉を込めて批判。法規制の必要については「一定の能力以上のドローンを登録制にするのも一案」、法規制を急ぐ海外「各国や国際機関とも連携し、悪用の防止を急いでほしい」と一応認める姿勢ではある。

 読売も「あまりに心もとない警備体制である。総点検が必要だ」と叱り、政府が早急に検討する飛行規制については「墜落事故も相次いでいる現状を考えれば、安全確保と悪用防止のためのルール作りを進める必要がある」と指摘する。しかし、国家の中枢が狙われた問題への対応を論じるにしてはどこか鷹揚(おうよう)感がある。

◆活用にも冷静な論考

 今回は悪用されたが、ドローンは災害・事故現場での調査や物品の搬送、測量、テロ対策など広範な活動に役立つ。今後10年間で世界の市場規模は約1兆3900億円に倍増との予測を示し読売は「使い方次第で、大きな可能性を秘めている」から「一定のルールの下に、ドローンの有効活用を図っていきたい」、日経は「悪用を防ぎ、安全で真に役立つ道具に育てていきたい」と、規制と活用の折り合いをつける視点で論じた。産経も「テロ対策の一環ととらえ、早急に防止策を」求める一方で、「多くの可能性を持つドローン自体を悪者視してはなるまい。安全かつ有効に、その機能を活用できる枠組みを作ることも同じく重要だ」と主張する。各紙とも、この点は冷静な論考を展開した。

 さて、ドローン事件の再発防止で、法的規制を含む警備対策について最も具体的に論じたのは産経である。官邸や原発など重要施設上空など「効果的な飛行制限区域の設定をよく考えてほしい」と主張。その上で、規制を強化しても「破る人がいればドローンは接近する」から、「機体の操縦に用いられる電波に妨害を加え、接近を阻止するなど、現実の危険回避に役立つシステム」技術を開発して悪用防止する必要まで説いた。日経も同様の論考を示し「技術面からの対策も重要」と指摘したことは重視すべきであろう。

 ドローン事件の容疑者逮捕後に社説を掲載したのは、小紙(27日)と2回目の産経(同)である。産経はここでも再び「規制は、悪意による犯行の封じ込めに必ずしも有効とは言い難い」として「最重要施設の上空では、強制的に操縦の電波を遮断できるような対抗措置も必要」と、メーカーや技術者に総力をあげての技術開発を求めた。

◆テロ防止対策が必要

 小紙は事件を「『反原発』の思想犯による一種のテロ行為」ととらえた。ドローンがテロに悪用される問題を孕(はら)むことは産経、日経、読売でも触れているが、この点に絞って論じたのは小紙だけ。テロ対策はドローンの運用規制だけでなく、今国会で上程されている通信傍受法改正案もテロ防止に期待できることに言及。しかし、179カ国が法整備を終えている共謀罪をわが国は「店晒(ざら)しにしたままで、国際対テロネットワークに穴を開けている」問題を指摘したのである。

(堀本和博)