7割以上が同性間の性的接触だったHIVの感染経路を書かぬ毎日
◆打って変わった編集
こんな記事が朝日4月8日付の都版に載っていた。
東京でHIV(エイズウイルス)感染者が増加。とりわけ20代の感染者は昨年、過去最多の148人を数えた。患者・感染者の97%は男性が占め、感染経路の7割強が同性間の性的接触だった――。
都の発表モノだ。ところが、同じニュースを伝える毎日都版(7日付)は、感染者・患者の推移や年代別などは詳しく書くのに、どういうわけか、感染経路についてまったく触れていない。
HIVに限らず、感染症に関わる報道で、感染経路を記述しないのは考えられないことだ。デング熱では代々木公園のヒトスジシマカだったように、感染経路は中心テーマだ。それがなければ、記事にならない。欠陥記事が平然と毎日に載ったことになる。
記事末尾には「武本光政」との署名がある。この名前は福島県の人なら聞き覚えがあるはずだ。原発事故を受けて福島県が実施している県民健康調査について専門家が発表の前に事前に準備会をもっていたが、これを武本記者は「秘密会」と書き、隠れて口裏合わせをしているかのようなスクープ記事に仕立てあげ、情報公開を迫ったことがあるからだ(2012年10月3日付)。
県は公開してこなかった非を認めて改めたが、なにせ健康調査の中心は子供らの甲状腺被曝(ひばく)調査だ。発表の表現によっては誤解や風評被害を招き、県民の心情を傷つけかねない。それで準備会を持っていた。だが、毎日は何でもかんでも公開せよと書き立て、関係者を辟易(へきえき)させた。
それが武本記者だが、今回はHIVの感染経路という重要ファクターを欠落させた。単純ミスとは考えられない。おそらく記者もデスクもそれを承知で、社を挙げて「非公開」にしたとしか思えない。
◆同性愛者への肩入れ
なぜなのか。思うに「同性間の性的接触」という感染経路、つまり同性愛者がHIVの感染増加を牽引(けんいん)している事実が、毎日にとって不都合だったのではあるまいか。それとも同性愛者の「人権」に配慮したのか。いずれにしても意図的な隠蔽(いんぺい)に違いない。
それほど毎日の同性愛者への肩入れは尋常ではなかった。渋谷区が同性カップルを結婚に相当する関係と認めて証明書を発行する制度を盛り込んだ「同性パートナーシップ条例」を作成すると、新聞では朝日とともに真っ先に全面支持を表明した(両紙3月15日付社説)。
毎日は同条例を「レズビアンやゲイなどの性的少数者(LGBT)の人権尊重が狙い」とし、「LGBTへの差別をなくし、パートナーとして公的に認める法整備」を国に求めた。LGBTとはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)などを指す。確かに少数者だが、「性的嗜好」の問題にすぎない。
よく性同一性障害と同列に人権問題として論じられるが、筋違いだ。心と体の性が一致しない同障害は「障害」であって、性的嗜好ではない。日本精神神経学会は性自認の障害とし、性同一性障害診断ガイドラインにおいて「職業上の理由や社会上の性役割を忌避するなど、自己の利得のために別の性を求めていないことを確認する」と明記し、ゲイなどと厳に区別している。
◆「差別」はないと産経
それにもかかわらず、渋谷の条例では多くの新聞が「性的少数者」の人権問題として扱う。反対する本紙と慎重論を説く産経を除いて、ほとんど賛成論に染まっている。
東京は3月27日付社説、日経は4月7日付社説で賛成論をぶった。西日本新聞(3月21日付社説)や沖縄タイムス(4月12日付社説)も同様だ。いずれも決まったように「同性のカップルは住居の賃貸契約を断られたり、入院時の面会を家族でないとして拒まれたりしてきた」(日経)というが、そうした事実があるのか、取材して確かめた節はない。
これに対して産経は区内の不動産会社や病院を取材し、「入居・面会『断ったことはない』」と断じている(17日付「渋谷の変 上」)。賛成派が言うような「差別」はどこにもなかった。人権擁護委員会に訴えがあったという話も聞かない。
明らかに作られた「差別」だ。それを正当化するために毎日のエイズ報道のように公然と隠蔽を行っているとするなら、恐るべき偏向報道だ。
(増 記代司)