翁長知事に反米「戦車闘争」を指南した沖縄タイムスの日米安保潰し
◆故リー元首相の忠告
シンガポールの「建国の父」リー・クアンユー元首相が3月に亡くなった。朝日は「世界史に名を残すアジアの巨人」(同24日付社説)と書き、他紙も資源のない小国を急成長させた経済的手腕を称(たた)えた。だが、氏の安全保障観について触れる記事はほとんど見かけなかった。
沖縄の普天間飛行場の移転先について民主党政権が「最低でも県外」と叫んだとき、これに異議を唱えたのがほかならないリー元首相だった。それも朝日紙上で、だ(2010年5月11日付)。
リー元首相は船橋洋一主筆(当時)のインタビューに応じ「米国抜きではアジアの勢力均衡は保てぬ」と強調し、「県外移設」を厳しく批判、「日本国民は現在の政府(の意向)に関係なく、長い目で見た利益は何か、自国の安全と沖縄県民の事情のどちらがより重要なのかを決断する必要がある」とまで言い切った。
それほど沖縄の米軍基地は自由アジアにとって重要だというメッセージだった。それから5年、アジアの安保環境は中国の軍拡で激変した。だが、朝日にはリー元首相の忠告に耳を傾ける気配はない。
朝日6日付は菅義偉官房長官と翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事の初会談を「辺野古移設『絶対できない』」(1面トップ)「攻めた翁長氏」(2面「時時刻刻」)「『粛々、沖縄の怒り増幅』 /翁長知事『上から目線の言葉』」(社会面)と翁長ワンサイド報道に終始し、社説では辺野古工事の中断を迫った。
◆翁長発言に読売苦言
地元紙はと言えば、沖縄タイムスは「辺野古断念を要求」「知事対峙 毅然と/民意貫く誓う拳」と機関紙調一色、琉球新報は「『キャラウェイ重なる』知事弁務官例え批判」をトップ見出しに据えている(いずれも6日付)。
キャラウェイ弁務官は米軍軍政時代に「苛政」を強いたことで知られる。その人物を菅官房長官と重ねる翁長知事の発言は常軌を逸しており、非礼が過ぎる。それを琉球新報はベタ白抜きの大見出しを躍らせた。もはや報道の枠組みからはみ出す、レッテル貼りの印象操作だ。
読売7日付社説は「批判にも相手への配慮が要る」とし、「挑発的な言葉を避けて、冷静に議論してもらいたい」と諌(いさ)めているが、果たして聞く耳を持っているだろうか。現に朝日は「(キャラウェイ発言は)沖縄の人々の共感を誘っている」(7日付)と煽(あお)り、琉球新報の松元剛報道本部長の「歴史的発言」との話まで載せている。
そもそも辺野古移設の原点は宜野湾市にある米軍普天間飛行場の危険性の除去にあったはずだが、翁長知事も地元紙も朝日も、ほとんど言及しない。また移設後の基地跡地利用についても沈黙する。
今回の菅官房長官の沖縄訪問は西普天間住宅地区の返還式に出席するためで、返還後は「国際医療拠点」の建設が予定されているが、そうした肯定的報道も少ない。抑止力維持も大きな課題だが、安全保障面の報道も心もとない。
◆「権力包囲」狙う闘争
その一方で不可解な記事がある。沖縄タイムスは菅-翁長会談を控えた4日付1面コラム「大弦小弦」で「ベトナム戦争終盤の1972年、当時の飛鳥田一雄横浜市長はベトナム行きの米軍戦車の市道通行を道路運送法上の権限でストップさせた」とし、その「戦車闘争」を見習えと主張している。
飛鳥田氏は1970年代の革新自治体の先鞭をつけ、後に社会党委員長を務めた人物だ。77年に北朝鮮を訪問した際、革新自治体の“使命”について「都市を占拠する(革新自治体を作る)ことによって、国家権力を包囲してしまう。独占資本は都市を支配しなければ維持できません。そこを占拠して、中央政権を包囲する」と語っている。
それで反米・反基地闘争にも余念がなかった。北朝鮮ではチュチェ思想(金日成主義)を持ち上げ、金日成主席を「アジアと世界のすぐれた指導者」とまで述べた。こういう人物の「戦車闘争」を沖縄タイムスは辺野古に持ち込む魂胆のようだ。
それがリー元首相の指摘した「沖縄県民の事情」(むろん一部勢力の)なら「自国の安全と沖縄県民の事情のどちらがより重要なのか」を決断する必要がある。やはり政府は「粛々」と移設工事を進めていくべきではないか。
(増 記代司)