ギリシャ財政問題からEUの存廃に関心を注ぐ東洋経済の欧州特集
◆学級崩壊に例え解説
つい最近、ギリシャで選挙が行われ、急進左派のツィプラス政権が誕生した。財政破綻状態にあるギリシャに対して、これまでEU(欧州連合)は金融支援する見返りとして緊縮財政による立て直しを要求してきた。ギリシャはEUの要請を受け入れ、ようやく財政は立て直しの兆しが見えたものの、生活苦を強いられる国民は猛反発。国民の支持を受けたツィプラス首相は、これまでの緊縮財政を見直すと反旗を翻す一方で、逆にさらなる金融支援をEUに求めている。
かつてPIIGS(ピグスいわゆるホルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)と呼ばれた5カ国が財政難に陥った。それらの国々は今なお完全に立ち直ったわけでもなく、構造的な問題を抱えている。中でもギリシャは深刻だ。ヨーロッパを俯瞰(ふかん)すれば、フランスやデンマークで起きたイスラム過激派によるテロ事件やウクライナ問題など解決すべき課題は山積している。EUは今、一つの岐路に立たされている。
そうした中で、週刊東洋経済は3月7日号でEUに焦点を当てて特集を組んだ。表紙見出しは「1冊まるごと欧州」「ヨーロッパが直面する分裂の危機!」というもので、確かにページ量は多い。同誌のおよそ4割を注ぎ込んでおり、読み応えがある。
読んで分かりやすかったのが、予備校“カリスマ講師”の細野真宏氏による解説だ。記事は世界を一つの学校に例えて面白い。その中でEUは現在、「学級崩壊」状態にあるという。一人の生徒のルールを無視した行動が引き金となって、生徒らが連鎖的に騒ぎだし、先生も手がつけられない状況に陥っていく学級崩壊だが、ルールを守らず騒いでいるのがギリシャ。このギリシャの行動が引き金となって、EUに不満を抱く他の加盟国に連鎖するかもしれない状況だと説明する。
細野氏の解説はギリシャだけにとどまらず、ロシアの混乱の原因、さらに日本への影響など多方面にわたるもので、民間エコノミストや大学教授の難しい話を聞くよりも分かりやすく、納得がいく。
◆共同体は欧州の悲願
また、東洋経済にしては珍しく2㌻にわたって漫画で「EUの歴史」を展開した。第2次世界大戦後に発足したECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)からEU結成に至るまでの過程を平易に説明しており、見た目で理解できるようになっている。そういう意味では、経済専門誌という難しいイメージでなく、平易な入門編を織り交ぜてとっつきやすい企画になっている。なにせ欧州諸国の「共同体」というものが、日本周辺の極東地域から距離も実感も遠くて理解しにくいものだからだ。
ところで、EU創設の背景には、2度にわたる大戦に対して、極端なナショナリズムに対する反省から共通の価値観を持って一体化し、将来的には米国のようなヨーロッパ合衆国を実現させるという構想があった。同誌の特集の中で北海道大学の遠藤乾教授が、「ヨーロッパ統合は、歴史的和解と域内平和の象徴と見られているが、それは神話である」と言い切るのは、偏った見方であろう。
すなわち、同教授は、「ECSCは、西ドイツの石炭を『国際共同管理』という建前で獲得したいというフランスの思惑と、…西ドイツ(当時)は国際社会復帰という国策からスタートした」というが、少なくとも当時、悲惨な犠牲を払った大戦に対して平和な国家を建設したいという思いはヨーロッパの国家、国民の悲願であった。
◆ナショナリズム台頭
ただ、戦後70年、EU創設から23年を経て各国のナショナリズムが徐々に湧き出て、いわゆるEUの「共通の価値観」を持つことに対して反発を露(あら)わにしている。しかも、景気の低迷や失業率の増加に対するいら立ちが、域内外のイスラム勢力に対しても反感を増幅させ、その感情が「負の連鎖」の引き金になっていることは否めない。
かつてフランスの政治家で「欧州統合の父」といわれたジャン・モネは、「欧州各国がそれぞれ繁栄を得るには小さすぎる。単一の経済圏を構築すべき」としてスタートした欧州統合。仮に、ここでEUが瓦解すれば世界的な経済危機を引き起こすのみ。EU諸国はすでに一つの船で出帆してしまった状況だ。もはや後戻りはできず、そういう意味でEUは共通の価値観に立ち返り、荒波を乗り越えるという試練にぶち当たっている。
(湯朝 肇)





