フィリピン南部でイスラム過激派との戦闘激化
複数のイスラム勢力が拠点を置くフィリピン南部で、掃討作戦を行う国軍部隊と反政府イスラム過激派との戦闘が拡大。多数の死傷者が出ているほか、7万人の住人が避難を強いられるなどの混乱が広がっている。また新たなイスラム過激派の存在が確認されているほか、イスラム過激派アブサヤフとの戦闘も激化するなど、南部情勢は緊迫した状況を迎えている。(マニラ・福島純一)
7万人が避難、非常事態宣言も
組織分裂が和平の障害に
ミンダナオ島のマギンダナオ州とその周辺地域で、反政府過激派のバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)と国軍部隊の戦闘が拡大し、13日までにBIFF側116人と、国軍兵士6人が死亡した。国軍当局が明らかにした。国軍は2月末から同地域で、BIFFに対する空爆を含む大規模な掃討作戦を展開。戦闘は居住区にまで及び、7万人以上の住人が避難を強いられる状況となっている。州政府は非常事態宣言を発令し、住人への食料・医療支援を行っているが、イスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)当局によると、1週間に1200万ペソ(約3300万円)の費用が必要とされており、自治体の大きな負担となっている。
BIFFは、現在フィリピン政府と和平交渉を進めているモロ・イスラム解放戦線(MILF)から、和平反対派勢力が分離して組織されたイスラム過激派で、国軍によるとその規模は300人程度とみられている。周辺地域ではBIFFによるとみられる、即席爆発装置を使った送電用の鉄塔の爆破などの爆弾事件が相次いでおり、政府が最も警戒するイスラム過激派となっている。
さらにBIFFからは最近になって、指名手配中の爆弾テロ容疑者をリーダーとした、イスラム運動のための正義(JIM)を名乗る組織が派生していることが国軍によって確認されている。規模は70人程度とみられているが、目的など不明な点が多く国軍が情報収集を急いでいる。
政府がイスラム勢力と和平交渉を行う上で、大きな障害となっているのが、イスラム勢力の分裂だ。政府は1990年代にモロ民族解放戦線(MNLF)と和平が成立し、ARMMが設立されたが、MNLFから和平反対派が分裂してMILFを組織し、その後も政府との武装闘争を継続した。
その後、アキノ政権下でMILFとの本格的な和平交渉が開始されたが、これに反対する派閥がMILFから離脱し、BIFFを組織するに至っている。MILFやBIFFなど別組織であっても、親族関係でつながっている構成員も多く、国軍との戦闘で共闘することもあり、和平交渉を混乱させる一因にもなっている。
一方、国軍はスルー州などにおけるイスラム過激派アブサヤフへの掃討作戦にも本腰を入れている。国軍によると今年に入ってから3月までに、戦闘で死亡したアブサヤフ構成員は27人に達し、負傷者は80人となった。昨年1年間に死亡したアブサヤフ構成員は27人で、負傷者は38人となっており、既に昨年を大きく上回る死傷者数となっている。
アブサヤフから奪取した拠点は5カ所に達し、押収した銃器は18丁となっているという。国軍はこれらの軍事的な圧力により、アブサヤフに誘拐されていた4人の人質が解放されたと掃討作戦の成果を強調している。一方、国軍側のアブサヤフによる被害は、兵士7人が死亡し70人が負傷。昨年は6人の兵士が死亡し29人が負傷となっており、死者だけを見れば昨年に匹敵する被害となっている。
国軍によると、アブサヤフの規模は400人程度と年々減少しているという。しかしその一方で、一部の派閥が過激派組織「イスラム国」への忠誠を誓うなどしており、さらに過激化する恐れもあることから、政府は警戒を強めている。アブサヤフは近年、多額の身代金を得られる外国人などをターゲットとした誘拐事件を繰り返しており、昨年4月には、パラワン島沖をヨットで航行していた2人のドイツ人を誘拐し、560万㌦の身代金を要求するとともに、ドイツ政府に米国が主導するイスラム国への攻撃を支持しないよう要求し注目を集めた。ドイツ人はその後、身代金を支払い無事に解放されている。
今年に入ってもアブサヤフは、依然としてフィリピン南部で誘拐を繰り返しており、日本を含む各国政府は、自国民に南部への渡航を控えるよう警告を発している。