オバマ安保政策の失敗を露呈、勢力拡大するイスラム国
性急なイラク全面撤収 シリア軍事介入を忌避
シリア、イラクでイスラム過激派テロ組織「イスラム国」が勢力を拡張し、かつてのアルカイダを上回る脅威になっている。この現実はオバマ米大統領のイラクからの性急な米軍撤収政策の過ちを浮き彫りにしており、オバマ政権の閣僚経験者からもその政策への批判が相次いでいる。
(ワシントン・久保田秀明)
「対テロ戦勝利」主張が足枷に
2001年9月11日の米同時多発テロ直前には、イスラム過激派テロ組織、アルカイダはアフガニスタンのタリバン政権に庇護(ひご)され、アフガニスタンを国際テロの活動拠点にしていた。現在、イスラム国はシリアからイラクにまたがる広大な領域を支配し、国家の軍隊に匹敵する軍事組織を作り上げている。米欧を標的にした国際テロの脅威としては、2001年9月の時点を上回っていると見て間違いない。
ブッシュ前政権が2007年にイラクへの米軍増派作戦を展開した時は地元のスンニ派部族長と連携し、イスラム過激派の中心勢力だった「イラクのアルカイダ(AQI)」をほぼ撃退することに成功していた。そのイラクがいま、かつてのアフガニスタン以上のテロ組織の温床になってしまった背景には、オバマ政権の性急な米軍全面撤収がある。
2011年当時、米軍の中央軍司令官をはじめ現場の司令官は、イラクには2万人規模の米軍部隊を残留させるべきだと主張していた。すでに当時、AQIなどイスラム過激派のテロ攻勢が強まる兆候があったからだ。オバマ大統領はこうした司令官の声に耳を傾けることを拒否し、米軍の全面撤収を実行に移した。昨年まで米国防長官を務めたレオン・パネッタ氏は、オバマ大統領のイラクからの米軍全面撤収は失敗だったと批判しており、撤収で生じた空白がイスラム国の勢力伸長を許したと指摘している。オバマ大統領が現場の声に耳を傾け、2万人前後の米軍部隊をイラクに残留させていれば、イスラム国がここまで猛威を振るう事態は回避できていただろう。
イスラム国がイラクで劇的な進撃を実行できたのは、2011年からのシリア内戦の混乱に乗じて、シリアで勢力基盤を構築したからだ。シリア内戦では、当初は穏健派の「自由シリア軍」が反体制派武装組織の中心になった。オバマ政権でもクリントン国務長官(当時)やパネッタ長官(同)は、シリアの反体制穏健派に武器供与すべきだと大統領に進言していた。とくに昨年後半には、イスラム国の前身組織である「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」がシリア反体制派の中で勢力を拡張し、反体制派勢力の主導権を握る動きが顕著になってきた。シリア内戦が長引くほど、ISIS、すなわちイスラム国が穏健派を食って勢力を拡張することは目に見えていた。にもかかわらず、オバマ大統領は反体制穏健派勢力への武器供与を含めシリア情勢への介入を忌避し続けた。クリントン前国務長官はこの点についてオバマ大統領を批判している。オバマ大統領が側近の意見に耳を貸し、早い時期にシリア反体制穏健派勢力を支援していたら、イスラム国の成長の芽をその段階を摘み取ることができていたかもしれない。
オバマ大統領がシリア、イラクで進行していたイスラム国の勢力拡大、対米脅威の拡大を放置し続けた理由は、イスラム国に本気で対抗することはアルカイダが滅びつつあるという自分の主張の誤りを認めることを意味したからだ。イスラム国は今年2月にアルカイダ側から関係断絶の声明が出されるまでは、アルカイダ系組織と考えられていた。オバマ大統領は2012年大統領選で、アルカイダはもはや衰退し米国はテロとの戦いに勝利したと強調し続けた。シリア、イラクでのアルカイダ系組織の拡大を認め、対抗措置に乗り出すことは、自分のレトリックが正しくなかったことを認めることになる。これが大統領の行動を縛る足枷(あしかせ)になった。
デンプシー米統合参謀本部議長をはじめ米軍の制服組幹部の間では現在、空爆だけではイスラム国の勢力拡大を阻止できないというコンセンサスが生まれつつある。しかしオバマ大統領はシリア、イラクへの地上軍部隊投入を拒否し続けている。イスラム国は空爆にもかかわらず、イラク、シリアでの攻勢を優位に進めており、時間が経過するほどイスラム国にとって有利な状況が生まれつつある。オバマ大統領が米軍の地上戦闘部隊をイラクに投入することを拒否している理由の一つは、そうすることが2011年の米軍部隊全面撤収が誤りだったことを認めることになるからであり、ここでも政治的配慮が有効な軍事戦略を実施するうえでの足枷になっている。