「ソフトパワー」で平和構築を
在沖米軍基地の存在を踏まえた東アジアの平和と安全保障をテーマにした「万国津梁フォーラム」(県主催)が11日、那覇市内で開催された。昨年4月に沖縄周辺の安全保障問題を分析・研究する県地域安全政策課が発足して以来、安全保障フォーラムが県内で開催されるのは初めて。中国の軍事的台頭を念頭に、国内および米国、中国、台湾の研究者が意見を交換、アジアとの交易経験や平和を求める沖縄の持つ「ソフトパワー」で東アジアの平和と安定をもたらすべきだ、との見解で一致した。
(那覇支局・豊田 剛)
東アジアの安全保障語るフォーラム 那覇
冷静な対話や相互認識が必要
韓国、豪、東南アとの関係強化
力の均衡の急激な変化は危険
パネルディスカッションに登壇した日米中台の研究者たち=11日、ANAクラウンプラザ沖縄ハーバービュー(那覇市) 琉球王国時代、沖縄が東アジアや東南アジアと交易があり、「世界の架け橋」の役割を果たしていたことから、シンポジウムは「万国津梁フォーラム」と名付けられた。県は、開催意義を「東アジア地域の安全保障の歴史と現状などについて、アジア太平洋地域の安全保障の専門家による学術的立場から冷静かつ自由な議論を行い、今後の地域交流の促進を図っていくことを目的」とすると説明している。 開会あいさつで仲井真弘多知事は、「日本の平和の創造に貢献するために、アジア・太平洋地域諸国との信頼関係の醸造の場として、また、文化、環境対策など多様な安全保障を創造していく場として地域特性を発揮していく」と述べ、安全保障の議論を深めながら基地問題を解決することが必要だと訴えた。
高良倉吉副知事は安全保障に対する県の立場を説明した。「日本の安全保障にとって日米同盟は大事であり、日米同盟を支持する。運用上、米軍の存在を理解する」と強調。普天間飛行場の移設問題について、「危険性を除去するために日米両政府が合意した名護市辺野古への移設案そのものには反対ではない」と辺野古移設を一つの案として認める一方、「多くの困難を伴い、多くの時間を要することが想像できるため、県外の既存施設に移設した方が早い」という従来の知事の認識を確認した。
日中関係について高良副知事は、尖閣諸島の領有権をめぐる日中間の対立は東アジア、アジア太平洋地域、ひいては世界全体に重大な案件であるとした上で、「冷静な対話や相互認識で平和的に解決し、日中関係を安定軌道に乗せることが大切だ」との認識を示した。
シンポジウムのパネルディスカッションでは各研究者が「東アジア地域の安定に果たす沖縄の役割」について議論した。
政策研究大学院大の道下徳成准教授は、中国軍艦による射撃管制レーダー照射に触れ「近くで(中国の動きを)監視することが重要だ。沖縄の役割は高まっている」と指摘。日本が韓国、オーストラリア、東南アジアとの関係を強化することが最善策だと述べた。
これに対し、中国人民大学の時殷弘教授は、「経済大国である中国の太平洋での影響力を米国が認めることが重要だ」と述べ、中国の太平洋進出戦略を代弁した。
主催者を代表してあいさつする仲井真弘多知事=11日、ANAクラウンプラザ沖縄ハーバービュー(那覇市) また、東京大学大学院の高原明生教授は、沖縄の米軍基地について「負担軽減と整理縮小の方向はいいが、急激に力のバランスが変わるのは危険である」と述べ、平和維持のために沖縄が「力の重心なのはしばらく変わらない」として、在沖米軍の存在意義を指摘した。
ジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授は「平和には軍事による抑止力もあるが、国同士の信頼関係が重要」と述べた上で、諸外国と交流した琉球王国の歴史的背景があり、「環境、人間の安全、災害救助など非伝統的な安全保障の分野における沖縄の役割に期待する」と述べ、沖縄の持つ人間力に期待した。
台湾中央研究近代史研究所の林泉忠副研究員は「沖縄は日中米の狭間でバランスよく交流した文化の多様性と柔軟性があり、文化や価値観で相手を魅了し、地域に秩序をもたらす『ソフトパワー』を持っている」と指摘。「ソフトパワーを発揮することで東アジア地域の平和を維持させることができる」と見通しを示した。
シンポジウムでは、沖縄の持つ「ソフトパワー」の重要性およびその意味について深化させていくことで意見が一致した。また、フォーラムの方向性をまとめて「万国津梁イニシアティブ」としてはどうかとの提案があった。
フォーラム終了後の記者会見で高良副知事は「沖縄に基地、安全保障は必要だが、なぜそうなのか、また、沖縄を取り巻く環境はどうなっているのかを冷静に分析する必要がある」と、沖縄が現実に目を向けることの重要性を強調。米中台に韓国も加えたフォーラムを今後検討することを明らかにした。
尖閣問題で日中関係が緊張している中で行われた今フォーラムでは、中国からの研究者参加があり、尖閣諸島の領有権については触れないという前提で行われた。フォーラムに参加していた拓殖大学客員教授の恵隆之介氏は、「中国の脅威が全然語られず、危機意識が足りない。米軍の存在についても意見が少なく、物足りなかった」と感想を述べた。