円安が一段と進行し経済へのマイナス面を無視できなくなった各紙
◆毎日の懸念は中長期
円相場がこの1カ月で対ドルで10円近く安くなっている。米連邦準備制度理事会(FRB)が今月に量的金融緩和を終了し利上げが秒読みに入ってきたのに対し、日本は消費税増税後の景況改善が遅れて追加の緩和策が検討されるなど金融政策の方向性の違いが明らかになってきたのが主な要因である。
円安はこれまで輸出企業を中心とする企業の収益を向上させ、景況の改善に貢献してきたが、最近では経済界でも、これ以上の円安進行に対し、警戒感が強く意識されるようになってきた。
4月の消費税増税による駆け込み需要の反動減に加えて、賃金の伸びが増税と円安による物価の上昇に追いつかず、消費を落ち込ませている。そこに一段の円安進行は、さらに物価を上昇させ、所得の目減り感を強く意識させる。また、国内取引の多い企業には原材料費のさらなる上昇につながり、収益を一層圧迫する要因になるからである。
新聞では、これまでに毎日、読売、東京の3紙が「円安の進行」に関する社説を掲載。日付順に見出しを並べると、毎日(9月21日付)「負の側面を警戒しよう」、読売(23日付)「景気への副作用に目配りせよ」、東京(27日付)「弱者への配慮が必要だ」と、いずれもマイナス面を意識した内容になっている。
毎日が「最も警戒すべき」と強調するのは、「円安が日本の長期金利の高騰(国債価格の下落)につながる可能性」である。
一段の円安は貿易赤字をさらに増やし、慢性的な経常赤字を招く恐れがある。巨額の財政赤字を抱えた日本が経常赤字も増やすことに市場が注目した時どうなるか――。
この毎日の懸念は、当面というより、中長期的な問題である。
◆景気を心配する読売
確かに、今回の円安進行は日米の金融政策の方向性の違いが主要因であり、米国の量的緩和の終了・利上げ、日本の量的緩和の継続という構図は当面続きそうだが、それでも「慢性的な経常赤字…」や「長期金利の高騰…」はかなり先の話である。懸念すべきはむしろ、読売が先述の見出しにも示すように、「景気への副作用」であろう。
みずほ銀行の推計によると、円安が10円進めば、上場企業は計1・9兆円利益が増えるが、非上場企業は逆に1・2兆円減益になるという。
読売は、ただ、輸出や海外展開に縁のない中小企業や、小売り、サービスなどの内需産業は円安メリットが乏しく、輸入原材料や電気料金の高騰などでコストがかさむため経営は圧迫されるとして、「過剰な円安で、中小企業が苦境に陥らないか心配である」とするが、尤(もっと)もである。
同紙はまた、「家計の所得が伸びない状況で、輸入食品やガソリンなど必需品の高騰が続けば、消費が低迷し、景気回復の足を引っ張る懸念があろう」と指摘する。10月に入って値上げがさらに相次いでおり、これまた同感である。
それにしても、今回の円安進行で強く意識させられるのは、日銀の金融政策がより難しくなっていることである。
黒田東彦(はるひこ)総裁は、最近の円安について「大きな問題があるようには思っていない」と会見で表明し、日本経済が消費税増税後の回復がもたついていることに対して、追加の緩和策も辞さない構えを見せている。しかし、そうなれば、毎日が指摘するように、さらなる円安を招くことになりかねない。一段の円安がもたらすマイナス面は、これまで示してきた通りである。
◆円安過小評価は禁物
円安にはもちろん、読売も示すように、企業の輸出代金や海外で上げた収益の為替差益を拡大させるなどのプラス面もある。要は円安のマイナス面の過小評価は禁物ということである。
円安がさらに進み、つれて物価も上昇、かつ、所得が物価の上昇以上に伸びなければ消費も回復しない。これに懸案の来年秋の消費再増税実施となれば、いわゆる物価高の不況、スタグフレーションの様相が色濃くなってこよう。
東京は、増税、実質減収、円安による物価高と「家計は三重苦である」と指摘するなど、確かに肯(うなず)ける点も少なくないのだが、「(円安で)潤うのは大手企業や資産家ばかりで家計や中小企業…」と、ステレオタイプ的表現、分析が目立つ。
(床井明男)