習近平中国主席、インド洋諸国歴訪で日米牽制

 中国の習近平国家主席は11日から8日間、タジキスタン、モルディブ、スリランカ、インドの4カ国を訪問し、インド洋周辺国に対して「海上シルクロード」構築へ布石を打って日米を牽制(けんせい)する外交戦略を展開している。(香港・深川耕治)

「真珠の首飾り」警戒する印

経済交流促進も紛争が障害

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18日、ニューデリーで共同声明発表後に握手を交わす中国の習近平国家主席(左)とインドのモディ首相(AFP=時事)

 今回の4カ国歴訪は、習近平政権が昨年9月に打ち出した新シルクロード構想(陸のシルクロード、海上シルクロード)のうち福建省から東南アジア、インド、アフリカに至る海上貿易ルートに沿う諸国と経済を深化させる「21世紀の海上シルクロード」に沿った外交戦略を着実に進める大きな一歩となっている。

 新シルクロード構想は、アジアと欧州を結ぶ古代シルクロード(絹の道)が長安(現在の西安)を基点に陸上ルート、福建省を基点に海上ルートから国際貿易による繁栄をもたらした歴史を踏まえ、周辺諸国との間に交通インフラを最優先させることでアジア太平洋交通回廊を構築するという壮大な構想で、日本も巻き込んでいく狙いもある。

 最初の訪問国であるタジキスタンの首都ドゥシャンベでは中国やロシア、中央アジア4カ国でつくる上海協力機構(SCO)の加盟国会議で南アジア各国の経済協力を討議し、ロシアのプーチン大統領とも首脳会談を行い、蜜月関係をアピール。

 習近平国家主席は中露首脳会談のほか、SCO準加盟国モンゴルのエルベグドルジ大統領を加えた初の3カ国首脳会談にも出席した。中露蒙首脳は会談の定例化に意欲を示し、「中露両国は第2次大戦での歴史で3カ国の立場が近い」としてモンゴルにも秋波を送り、3カ国をつなぐ鉄道の拡張や地域送電網の敷設計画などが協議されている。

 15日、2番目の訪問国モルディブの首都マレではヤミーン大統領と会談し、国防協力で合意。中国国家主席のモルディブ訪問は初めてで、共同コミュニケではマレと国際空港を結ぶ橋の建設への資金援助も締結され、モルディブは中国が提唱する海のシルクロード建設についても支持した。

 16日、習主席はインド洋の島国スリランカを訪問し、ラジャパクサ大統領と会談。ここでも習氏が提唱する海のシルクロード構想への支持が示され、2国間の行動計画では自由貿易協定(FTA)の正式交渉開始が盛り込まれ、コロンボ沖合を埋め立てる「ポートシティー」建設には14億㌦(約1500億円)を支援し、17日の起工式にも参加している。

 中国のスリランカへの急接近は、インドだけでなく、日米も強い懸念を持つ。

 中国が近年、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどの港湾インフラ支援を推進して真珠に当たる港を線でつなぐ「真珠の首飾り」でインドを包囲する弧を描く軍事拠点化を狙っているとの懸念がインドにはあり、インド洋の海上輸送路(シーレーン)に脅威となる日米にとっても中国の動きは強い警戒感を抱かせている。

 スリランカは従来、インド、日米との経済協力が強固だったが、内戦中の人権問題をめぐり、欧米との関係が悪化。近年では貿易投資面で中国依存が目立ち始めており、過度な中国依存への警戒感が国内では根強い。安倍晋三首相も7日にスリランカを訪問し、137億円の円借款に合意して巡視艇供与に向けた調査を約束して関係強化を打ち出し、「真珠の首飾り」にくさびを打つべく、巻き返しを進めている。

 明暗を分けたのは習主席の最後の訪問国インドだ。

 17日、習主席はインドのモディ首相が今年5月まで州首相を務めていた西部グジャラート州を訪問し、この日64歳の誕生日だったモディ氏は異例とも言える同州で出迎えた。習氏は同州の最大都市アーメダバードでインド独立の父・ガンジーの旧宅や周辺川岸をモディ首相と共に散策。翌日の首脳会談を前にインド各紙は最大の貿易相手国である中国が今後5年間で1000億㌦(約10兆7000億円)規模の投資を表明する見通しとの予測記事を掲載するほどだった。

 しかし、18日の中印首脳会談後の記者会見でモディ印首相は、インドの鉄道高速化で両国が連携に合意したことを表明する一方、両国が領有権を争うカシミール地方とインド北東部アルナチャルプラデシュ州で中国人民解放軍による越境行為が続いていることに懸念を表明した。経済協力では、中国が5年で200億㌦(約2兆1700億円)を投資すると発表し、予想をはるかに下回る投資にとどまり、友好一色とは言えない両国の思惑に大きなズレがあることが浮き彫りになっている。

 中印貿易はインド側の赤字が続き、2012年には300億㌦(約3兆2000億円)近い輸入超過。インドの高速鉄道化に対する中印合意内容には鉄道職員の訓練、駅の再開発、鉄道大学の創設や西部グジャラート、マハラシュトラ両州に中国企業向け工業団地を設置することも含まれる。インドの高速鉄道化には日本の新幹線と中国製の高速鉄道のいずれが受注するか、入札競争の激化は避けられそうにない。日本は今月上旬に東京で開かれた日印首脳会談で、インドに対し、今後5年間で3・5兆円規模の官民投融資を表明しており、日本がやや優勢だ。

 安倍首相は海洋安全保障強化を図るため、日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4カ所を菱形(ひしがた)に結ぶ「安全保障ダイヤモンド構想」を提唱しており、中国がインド周辺国への支援を通じてインドを包囲する「真珠の首飾り戦略」にどこまで対抗していけるか、今後の中印関係の進展が大きな鍵になりそうだ。