最優先課題、慎重要す消費再増税判断 第2次安倍改造内閣スタート(下)
「引き続き経済最優先でデフレからの脱却を目指し、成長戦略の実行に全力を尽くす」――。安倍晋三首相は新内閣発足後の会見の冒頭でこう表明した。地方の創生、安全保障法制の整備、拉致問題の解決など内閣の最優先課題を実現するためにも、「景気回復軌道をより確かなものとし、その実感を全国津々浦々に届ける」ことが必要不可欠の大前提だ。
デフレ脱却は「アベノミクス」の目標であり、年末には消費税率を2015年10月から10%に引き上げるかどうかの難しい判断が控えている。
デフレ脱却はしかし、道半ばというより、4月の消費税増税によって日本経済が回復の勢いを失うことで達成が遠のこうとしている。デフレ脱却とともに財政健全化も重要課題として、同時に二兎(にと)を追ったため効果が相殺し、どちらの目標達成も遅れそうである。
それだけに、消費再増税の判断は慎重さを要する。強行すれば、物価高の不況、いわゆるスタグフレーションの様相を一段と強めることになりかねない。増税は必ずしも税収増、財政健全化とはならない。
今回の組閣、党役員人事で財務相、経済再生相の重要経済閣僚が留任し、幹事長に谷垣禎一前法相を据えたことは「増税シフト」と見る向きもある。谷垣氏が消費税増税関連法を野党当時に野田政権と合意、成立させた総裁だからである。
その谷垣氏は3日の会見で、「基本は法律に書かれた通りに進めていくということだが、同時に景気情勢もよく見ていかなければならない」と述べ、見直しも排除しない考えを示した。麻生太郎財務相と甘利明再生相も経済規模の拡大につながる景気の確実な上昇が大事との認識だ。問題は首相が判断する12月までの経済状況である。
成長戦略は速攻で効くものではない。民間投資をじっくりと確実に引き出す環境を整える。安定政権だからこそできる政策だ。安全が確認された原発の再稼働を進めることも、そうした環境整備の一つである。立地自治体の理解獲得へ小渕優子経済産業相の役割は重要だ。
安倍政権が看板政策の一つに掲げる地方創生の司令塔には紆余(うよ)曲折の末、石破茂前自民党幹事長が就いた。人口減少による消滅危機に直面する地方自治体の活性化に地方分権、道州制改革なども含め、日本の未来を地方から描き直す作業となる。首相をトップとする「まち・ひと・しごと創生本部」を基点として内閣の総力を動員していく推進力が必要となる。関連法の整備とともに、2020年までに実施する総合戦略の策定を急ぐ。
集団的自衛権の限定的行使容認の基本方針を踏まえた安保法制の整備も重要課題の一つだ。防衛副大臣を3度務めた江渡聡徳氏が防衛相と兼任で担当相となり、法案を準備する。
このほか、東日本大震災からの復興、教育の再生、社会保障制度改革、女性が輝く社会の実現、普天間飛行場の辺野古移設と沖縄の負担軽減、中国、韓国との関係改善、北方領土問題や北朝鮮の拉致問題解決などの重要課題が山積する。
野党が手ぐすねを引く中、これらの課題を「実行実現」するためには国民の理解を得られるよう丁寧な説得作業を積み重ねなければならない。
(経済部・床井明男、政治部・繁田善成)