日本との対話断絶に疑問の声-韓国
「朴大統領は感情超え成熟さを」
先日、インドネシア・バリ島で行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などで、日韓首脳は肩透かしの“接触”に終わったが、冷え込んだままの日韓関係を心配し、朴槿恵大統領の対日対話拒否の方針に疑問を投げ掛ける声が韓国国内から出始めている。「日本の善処」を対話の大前提にして頑として動かない朴大統領のやり方は、韓国識者にもいびつに映っているようだ。
(ソウル・上田勇実)
集団自衛権巡り米国配慮論も
韓国最大手・朝鮮日報の看板コラムニストの一人、金大中氏は15日付同紙で、冷え込んだまま改善の兆しが一向に見えない日韓関係について、朴大統領に決断を促すコラム「韓日関係をいつまでこのまま放置するのか」を掲載した。
コラムはまず現在の日韓関係を「過去30年間、これほど疎遠だったことはない」と指摘した上で、集団的自衛権や靖国神社参拝など日本の“右傾化”を「韓国がどんなに問題提起しても日本はその方向に行く」のだから「それは日本の選択に任せ、その代わり独島(日本名・竹島)や従軍慰安婦の問題を有利に運ぶ」ため、日本と取引すべきだと述べた。
これは対話に応じる前提条件を日本に突き付ける入り口論ではなく、対話で得るべきものは得ようという出口論。コラムは取引の成否は「指導者(朴大統領)の交渉力」に懸かっているとしている。
またコラムは「今韓国としては日本との関係を正常化させることが極めて重要」だとし、特に「経済、産業・技術分野」を挙げた。「今のぎくしゃくした状態が長引いた場合、日本から得られるものと失うもののどちらが多いか比較する知恵が必要」と論じ、日韓関係悪化が自国経済に及ぼす悪影響に気が付くべきだとしている。
さらに集団的自衛権の問題をめぐっては米国配慮論を展開。「韓国が深く考えなければならないのは、アジア安保戦略で日本の役割に期待を示した米国と今後どのように調整するか」だとし、集団的自衛権をめぐり日本を支持した米国に一定の理解を示さざるを得ない複雑な胸中を吐露した。
その一方で「日本と中国のいずれか一方に傾かないよう気を付けるべきだ」とし、最近、日本を軽視し中国に傾斜するかのような朴大統領のアジア外交をやんわり批判した。
コラムは、韓国でよく見られる「日本の軍国主義復活論」のような「植民地時代の歴史が反復されるという悪夢」「被害意識や敗北主義」にこれ以上苦しむ必要はなく、もっと自信を持って能動的に周辺国との関係を構築すべきだと主張。最後に、国民感情を超え、「朴大統領は日本との関係を国内の人気取りの方便や国内政治の延長と見なさない成熟さ、時には大胆さを見せる時」と締めくくっている。
若干、引用が長くなったが、韓国でも名のある論客が日韓関係をめぐり韓国側に善処を促す主張を展開するのは、現在のような社会的雰囲気では一見、異例ともいえる。特に朴大統領は慰安婦問題をめぐり「国民と共に解決する問題であり、首脳同士が会っても解決できない状況」などと述べ、国民感情に引きずられ気味だ。そこに苦言を呈したわけだ。
実は多くの識者がこれと似たような考えを持っているという。日韓問題に詳しい世宗研究所の陳昌洙・日本研究センター長は「外交をはじめ日本と関係のある立場にいる人だけでなく、多くの識者がこれ以上、日韓関係が悪化するのを望まないというのが本音。韓国側が先に強硬な姿勢を崩すのか、それとも日本側が先に誠意を見せるかなど、方法論が残っているだけ」と述べた。