101兆円概算要求に批判一辺倒で低迷景気と絡めない各紙の論調
◆財政赤字で抑制要求
財務省が先月29日に締め切った各省庁の2015年度一般会計予算の概算要求は、総額で101兆7000億円程度と過去最大になった。成長戦略や地方創生、少子高齢化対策を受け付ける約3兆9000億円規模の「特別枠」に対する要求額も、ほぼ上限に達している。
初の100兆円超えになった概算要求に対し、各紙はそろって批判する社説を掲載した。「『水膨れ』にあきれ返る」(30日付毎日)、「放漫許さぬ覚悟をみせよ」(31日付産経「主張」)、「財政再建の意思あるか」(30日付東京)といった具合である。
特に厳しい批判を展開したのは、前述の通り、毎日と東京である。
「国の借金が1000兆円を超え、財政が危機的状況だから国民は消費増税の負担を受け入れたのだ。その中で予算要求を抑えず、これだけ水膨れさせるとは、政治家と官僚は国民の信頼にまったく反している」 「財政危機を叫び、国民に大増税を強行しながら、この財政規律の欠如は何なのか」 前者が毎日、後者が東京の批判である。
両紙ほどではなくても、「国の借金が1000兆円超という厳しい財政事情を踏まえ、歳出の膨張に歯止めをかけなければならない」(読売30日付)、「今後の査定作業には、徹底した要求の絞り込みを求めたい」(産経)、「不要不急の事業がないかを厳しく精査し、思い切って歳出を抑制すべきだ」(日経30日付)などといった注文が相次ぐ。
◆心もとない経済状況
確かに、各省庁の要求には似通った事業内容が目立つ。また、特別枠での要求には「地方」や「地域」の冠が付いただけで、旧来の事業と大差ないものも少なくない。厳しい財政事情の下では、各紙が指摘するように、省庁間での事業の調整や財務省による精査、絞り込みが欠かせないのは当然である。
ただ、財政健全化だけが重要課題ではない。先の70人以上の犠牲者を出した広島の土石流災害で明らかになったように、いわゆる国土強靭(きょうじん)化対策は待ったなしである。集中豪雨、河川の氾濫、土石流、地震、津波など対策は多岐にわたる。国民の安心・安全に資する対策は不断の継続が大事である。
そして、今回の特別枠に象徴される「地方創生」である。数十年後には自治体崩壊の危機にさらされる地方にとっては実に差し迫った問題であり、いかに人口減少・流出に歯止めをかけ、地域振興・活性化を図るか。知恵とカネの出しどころである。
さらに、最近の日本経済の心もとない状況である。「足元の経済は消費税増税後の消費回復が遅れ気味で、少し前までの勢いはない。再び景気に力強さを取り戻すためにも、特別枠を有効活用することは大切だ」との産経の指摘は尤(もっと)もである。
この点、読売や日経は歳出抑制の内容ばかりで、前述の産経のような経済情勢に絡めた指摘が全くない。もちろん、歳出抑制では「歳出の3分の1に迫る社会保障費を抑制できるかどうかが、財政健全化のカギを握る」(読売)との指摘はその通りである。
また、そのために割安な後発医薬品の利用拡大などとともに、医療や年金の給付削減など大胆な改革が不可避として、「社会保障制度改革推進会議などの議論を加速すべきだ」とする指摘は肯けるのだが、消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減からの回復が遅れ、設備投資が今後も伸び悩みそうな状況の中で、歳出削減ばかりの話でいいのかどうかということである。
◆欠かせぬ景気の視点
最近の経済状況については、円安と消費税増税によって物価が上がる中、実質所得がマイナスになり消費がさらに落ち込む、いわゆるスタグフレーションに陥っているとの指摘もある。
そんな中で、年末には安倍首相が、消費税率を来年10月から予定通り10%に引き上げるかどうかの判断を下す。
15年度予算は消費再増税で税収が増えることを見越して歳出を増やすというのは論外である。が、4月の消費税増税でダメージを受けた経済に対し、15年度予算が景気にプラスに働くのか、それともマイナスになるのか、または中立的か、といった視点も欠かせないのではないか。
(床井明男)