「決選投票」でシルバ氏優勢か、ブラジル大統領選の世論調査

 南米の大国ブラジルで10月5日に大統領選挙の第1回投票が実施される。当初は現職のルセフ氏が優勢と伝えられたが、野党大統領候補の飛行機事故死によるシルバ元環境相の出馬により、世論調査の数字では政権交代の可能性も出始めている。(サンパウロ・綾村 悟)

野党候補に弔い合戦の強み

環境重視政策、日本に好機か

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13日、ブラジリアで、カンポス氏死去について声明を発表するブラジルのルセフ大統領(AFP=時事)

 ブラジル大統領選挙が近年、最も大きな注目を集めたのは2002年、ブラジル民政移管後初の選挙だった。左派系首脳、ルラ前大統領(労働党=PT)が当選した。

 労働運動出身のルラ大統領は、同国初の黒人系大統領として就任すると、新興5カ国(BRICS)の一角としてのブラジルの影響力を背景に、国際社会の中での途上国の位置を大きく変える発言を行ってきた。

 また、同大統領は、ブラジル国内では、「飢餓ゼロ」プログラムや経済成長を通じて貧困層を中心に記録的な政権支持率を獲得、2期8年を務め上げた後に、後継者の現ルセフ大統領に労働党政権をつないだ。

 ブラジル初の女性大統領として就任したルセフ氏は、高い支持率を得てきたが、最近、その支持率にも陰りが見え始めてきた。

 現政権にとって最大の試練となったのが、昨年6月、ブラジルW杯の前哨戦でもあるコンフェデ杯開催を契機として、ブラジル全土に燎原の火のごとく広がった反政府デモだ。

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飛行機事故で死亡したカンポス氏(右)の副大統領候補だったシルバ氏(Jose Cruz/ABr)

 当時のブラジルでは、W杯関連予算が膨れ上がる一方で、物価の高騰が深刻な問題となっていた。こうした中、サンパウロ市での公共バス料金引き上げに対するデモがきっかけとなり、W杯よりも教育や医療への投資を優先すべきだと主張するデモが拡大、ブラジル全土で数百万人が現政権への不満を表明する事態となった。

 ブラジル政府は、ルセフ大統領自らがテレビを通じてブラジル国民に公共投資や政治汚職の一掃などを約束、事態の沈静化を図った。

 その後、W杯を前後してデモは沈静化の方向に動いており、10月の大統領選挙での強力な対抗馬も現れない中、ルセフ大統領の再選の可能性は高くなっていた。

 その状況を変えたのが、今月13日に発生した、ブラジル社会党(PSB)から大統領選挙に出馬していたカンポス元ペルナンブコ州知事の飛行機事故死だ。

 同氏の死亡により、同党から副大統領候補として出馬していたマリナ・シルバ元環境相(49)が急遽(きゅうきょ)、大統領候補として出馬を表明、第三の候補として名乗りを上げた。

 シルバ氏は、2010年の大統領選挙に少数野党の緑の党(PV)から出馬するも、第1回投票で19%を獲得、注目を集めた。

 シルバ氏の出馬が濃厚となった後に行われた最新の世論調査(今月18日発表)では、シルバ氏は、社会民主党(PSDB)のネベス候補を上回る21%の支持率を得て、決選投票に進むシナリオとなった。

 さらにシルバ氏と現職ルセフ氏による決選投票のシナリオでは、シルバ氏がルセフ氏を超える47%の支持率を獲得、ブラジル初の女性黒人大統領誕生の可能性が出てきた。

 世論調査の数字は、野党大統領候補の事故死に対する「同情票」が集まった可能性が強い。ただし、決選投票での現職を超える支持率は、政治汚職に厳しい目が向けられつつあるブラジルで、清廉かつ毅然としたイメージのシルバ氏に対する有権者の根強い支持だけでなく、昨年の反政府デモに端を発した現政権と現状の政治に対する潜在的な不満が数字となって表れたものといえよう。

 一方、ブラジル大統領選挙と政権交代の可能性は、日本にも関わりのない話ではない。安倍首相は、今月初めにブラジルを訪問、ブラジル政府との間に多くの協定を交わした。しかし、ブラジルにおける注目度では、安倍首相の前にブラジルを訪問して8000億円以上の投融資を約束した、中国の習主席には及ばない。

 シルバ氏は、元々ブラジル緑の党に所属、環境問題を重視する政治家として知られる。環境関連の国際賞を受賞したこともあり、その一貫した環境重視の姿勢から、ルラ政権時に環境相を辞任したこともあるほど。政権交代が現実になった場合、環境対応の技術を持ち、環境保護にも貢献してきた日本が、再び存在感を増す契機にもなりえよう。