危険ドラッグ問題でキャスターの勉強不足目立った「深層NEWS」

◆脱けない「脱法」呼び

 テレビが多チャンネル化して久しいが、筆者は最近、民放のBS放送を見ることが多くなった。民放BSと言えば韓流ドラマ、旅もの、スポーツ、ショッピング、そして映画やドラマの再放送が定番という印象だったが、最近は情報番組が割って入ってきた。ゲストコメンテーターをスタジオに呼んで話を聞くだけで1~2時間の番組を製作できるのだから、コンテンツ不足に悩む放送局側としては飛びつかない手はないのだろう。

 BSフジの「プライムニュース」(月~金20時~21時55分)、BS日テレ「深層NEWS」(月~金22~23時)、BSジャパン「プラス10」などがその情報番組だが、地上波と違って、出演者らがかなり自由に発言するのが目立つ。これはこれで面白いという受け取り方もできるが、番組製作としては雑という印象は否めない。

 例えば、最近では、危険ドラッグを摂取後、車を暴走させる事故が相次いでいることから、民放、NHKともにこの問題を取り上げた番組があった。7月24日放送の「深層NEWS」は「死を招く危険ドラッグ」、30日放送の「クローズアップ現代」は「命を奪う危険ドラッグ追跡! 中国ルート」と題して放送。両番組には国立精神・神経医療研究センターの和田清・薬物依存研究部長がゲストコメンテーターとして出演した。

 和田氏は両方の番組で、危険ドラッグには数種類の化学物質が入っているから、「どんな症状が出ても不思議ではない」と、違法薬物の覚醒剤などよりも危険であることを強調した。違ったのは、BS日テレでは危険ドラッグとは呼ばずに「脱法ドラッグ」を連発する一方、NHKでは脱法ドラッグとは一度も言わずに「危険ドラッグ」と呼んだことだ。

 警察庁と厚生労働省が先月22日、これまでの脱法ドラッグという呼称では、覚醒剤や大麻などと同様の幻覚や興奮作用があるにもかかわらず、危険性が弱いと誤認される恐れがあるとして、新しい呼称として発表したのが危険ドラッグである。

 法規制や取り締まりの強化と、乱用の危険性などを国民に知らせる啓発活動は、薬物乱用を社会に蔓延(まんえん)させないための両輪である。呼称を変えたぐらいで乱用者が減るとは思えないが、啓発の観点からすれば、その役割も担うテレビは率先して危険ドラッグという呼称を使用すべきだろう。

◆クロ現にインパクト

 深層NEWSで、和田氏は言い慣れているから、脱法ドラッグと呼ぶというような言い訳をしていた。しかし、取締当局が蔓延に対する危機意識を持って新しい呼称を発表したのだから、テレビ局側は出演者との事前の打ち合わせで、あえて危険ドラッグの呼称を使うことを確認しておくべきだったのだ。この点、スタッフに自らの社会的責任の自覚が足りなかったのではないか。

 一方、クローズアップ現代は30分番組にもかかわらず、危険ドラッグの元売人にカメラを向けたり、中国や米国まで幅広く取材した上で、ゲストコメンテーターに見解を述べさせるため、お堅いイメージは付きまとうが、ポイントを絞った番組構成に優れている。その例として、関東信越厚生局麻薬取締部の瀬戸晴海部長に取材し、「日本は薬物捜査は新たな局面に達していると強く実感している。ここで有効な手を打っておかないと、この国が将来、薬物依存大国となってしまう懸念すらある」とのインパクトのあるコメントを取っていた。

 深層NEWSのキャスターは日本テレビ報道局の小西美穂氏と読売新聞編集局次長・編集委員の玉井忠幸氏の2人だが、番組進行はもっぱら小西氏の役割。しかし、勉強不足からなのか、薬物汚染の実態や規制の在り方など基本的な部分への質問が多く、せっかく専門家を招きながら深みのある番組になっていない。

◆薬物に絡む中国問題

 その中で考えさせられたのはもう一人のゲスト出演者、元厚生省麻薬課長の藤井基之・自民党参院議員が番組終盤で行った発言。「科学技術の進歩によって、ものすごい数の新しい化学物質が誕生している」として、その数が1億3000万という米国のデータを紹介した。危険ドラッグの規制が困難なのは、化学物質が無数に製造できるからである。

 危険ドラッグの原料となる化学物質の供給源が中国となっていることも、薬物乱用防止をさらに難しくしている。食の安全と同じように、危険ドラッグにも中国問題が絡んでいる。こちらをテーマに、有識者の忌憚(きたん)ない意見を聞いたら、興味深い番組になるだろう。

(森田清策)