「人間の盾」作戦に徹するハマス

イスラエルによるガザ地上侵攻

パレスチナ側の死者570人超に

 パレスチナのイスラム根本主義過激派組織「ハマス」によるとみられる、イスラエル人3少年の誘拐・殺害事件を発端としたイスラエルとハマスの大規模衝突は7月17日夜、イスラエルによるガザ地上侵攻に発展した。地上侵攻は、2008年末から09年初頭以来、初めて。8日以降22日朝までのパレスチナ側の死者数は570人を突破、負傷者は約4000人。イスラエル側の死者も27人に増えた。パレスチナ側の死者数急増は、ハマスの人間の盾作戦に負うところが大きい。(カイロ・鈴木眞吉)

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22日、イスラエル軍の砲撃を受けるパレスチナ自治区ガザの市街地(AFP=時事)

 ガザからの大量のロケット弾を受けたイスラエルは7月8日から、ロケット弾発射基地の破壊を主目的にした空爆に集中したが、地上侵攻した17日以降は、ハマスが、ガザからイスラエル領内へと網の目のように張り巡らした地下秘密トンネルの破壊を主目的にした。

 トンネルはハマス活動家の移動経路となり、イスラエル側に侵入して大規模テロを起こし、イスラエル兵の誘拐やロケット弾発射機材の隠し場所としても利用されていた。

 双方の停戦仲介努力を続けていたエジプトのシュクリ外相は17日、「停戦案の拒否が、戦闘の激化を招来した」、として16日にエジプトが提案した停戦案を拒否したハマスを厳しく批判、さらに、ハマスの出身母体「ムスリム同胞団」を支持し、ハマスを擁護するカタールとトルコに対し「停戦交渉を邪魔している」と批判した。

 地上作戦の指示を受けたイスラエル軍は、戦闘機や艦艇の護衛を受けながら数千人規模の地上部隊で、戦車と共にガザ北部と東部に侵攻、ハマスの軍事拠点やロケット弾発射基地も攻撃し、空爆も続けた。軍は17日、10本のトンネルを発見し破壊したが、21日までのトンネル破壊数は23本に及んでいる。

 軍は、ガザ市内の病院や学校に隠されていたロケット弾を発見し、破壊した。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は17日、ガザ地区の無人の学校から20発のロケット弾を発見、「国際法の重大な違反に当たる」として批判した。

 イスラエル軍の地上侵攻後、最初に多くの犠牲者が出たのは、同軍が、ロケット弾が極度に多く発射されていた地区である北東部シェジャイヤ地区を攻撃した20日だ。

 軍の爆撃で、パレスチナ人死者数は60人、他の地域を加えると20日は約100人が死亡した。イスラエル軍は2日前に住民に退避勧告を出していたが、ハマスが残るよう指示、「人間の盾」として利用した。

 ガザ保健省によると、翌21日もガザ地区だけで101人が死亡、8日以降のパレスチナ人の死者は22日現在570人を超えた。負傷者も4000人に近い。イスラエル人死者は27人となった。

 今回の衝突を通じ、ハマスの正体が改めて表面化した。

 その第1は、ハマス幹部は衝突発生と同時に、住民を置いたまま真っ先に姿をくらまし、地下に潜伏したことだ。住民の命と安全に責任を持たない姿勢が露(あら)わになった。

 第2は、ロケット砲やミサイルを、民家や病院、学校、人口密集地に意図的に配置、住民を「人間の盾」として利用していることだ。攻撃される危険を感じて避難しようとする住民をとどまらせ、わざと死傷者を増大させている。それを宣伝に利用する非情さと狡猾(こうかつ)さが露わになった。

 第3は、停戦を拒否するという、人命軽視の非現実的判断を下すことに、何ら呵責(かしゃく)を感じない、狂信的信仰体質だ。

 ハマス イスラム主義を掲げるパレスチナの政党。1987年12月、アフマド・ヤシンによって、ムスリム同胞団のパレスチナ支部を母体として創設された。母体であるムスリム同胞団は、世俗法ではなく、イスラム法によって統治されるイスラム国家の確立を目標としていることから、ハマスが目指す国家も、世俗国家ではなくイスラム国家で、イスラム法に固執する。しかも正確には、同胞団パレスチナ支部の武装闘争部門として結成されたことから、武力使用に何ら抵抗感はなく、自爆を含むテロを多用してきた歴史がある。現在のガザも武力により支配した。従って、米国やイスラエルにより、テロ組織に指定された。