日米防衛相会談新指針で「実効性」主張する読、産など大局観は正論

◆論じなかった朝・毎

 今月1日に集団的自衛権行使の限定容認する新たな憲法解釈を閣議決定したことを受けて、小野寺五典防衛相がワシントンに飛び11日午後(日本時間12日未明)に米国のヘーゲル国防長官と会談し、閣議決定による新たな政府見解を伝えた。閣議決定の内容を、日本の閣僚が米国側に直接説明したのは初めて。行使容認は「米国が以前から強く要求してきたものだ。知日派は『集団的自衛権の禁止は日米同盟への障害』と繰り返し強調してきた」(小紙14日社説)もの。それだけに、閣議決定について米国側に直接伝えた今回の「日米防衛相会談は同盟強化の点で有意義であった」(同)ことは間違いない。

 小野寺防衛相は、今回の閣議決定を受け、米艦が平時に突然、弾道ミサイル攻撃されるなどの「グレーゾーン」事態での日米共同対処、周辺有事での米軍への後方支援の拡大などに向けた法整備を進めることを説明した。ヘーゲル長官は憲法解釈の変更を「大胆な歴史的な決定だ。強力に支持する」と強い支持を表明。年内にとりまとめをめざして再改定の作業を進めている日米防衛協力の指針(ガイドライン)に政府見解の内容を反映させ、この秋にも中間報告を公表することで一致したのである。

 この日米防衛相会談をテーマに社論を掲げたのは読売、産経、日経、小紙の4紙。朝日と毎日は棄権して土俵に上らなかった。会談のテーマが集団的自衛権の行使容認の閣議決定をもとに再改定されるガイドラインについて――では、これまで何とかして閣議決定阻止を図るべく狂奔してきた朝日、毎日にしてみれば、さらにその先にあるテーマなど論じようがないし論じたくもないのであろう。

◆日経は突っ込み不足

 閣議決定された内容を反映した新たなガイドラインの必要についての言及は、読売(13日社説)と日経(13日社説)、産経(14日主張)それぞれが工夫を凝らしていて興味深い。読売はその歴史から起こし、オーソドックスに丁寧かつ詳しく説く。日本有事を想定して1978年に作られた指針は、97年に改定。このとき「朝鮮半島などの周辺有事の際、自衛隊が米軍に一定の後方支援を行うことが明記された」が「(集団的自衛権の行使などを禁じる)憲法解釈のため、支援内容は大きく制限されていた」のである。しかし、今日の「日本周辺では、北朝鮮が核・ミサイル開発を続け、中国は東・南シナ海で挑発行為を強めている。17年間で激変した安保情勢に対応する新指針は不可欠だ」との説明は意を尽くしている。

 一方、日経は指針そのものに言及した。それが常に改正を積み重ねていくべきものであることの説明を次のように例えたのは絶妙。「緊急事態が起きたとき、自衛隊と米軍はどう連携するのか。コンピューターでいえば、その基本ソフト(OS)となるのが『日米防衛協力の指針』(ガイドライン)である。OSと同じく、バージョンアップが欠かせない」と。そのうえで「東アジアの安全環境の激変を考えれば、相当に大胆な見直しが必要だ」と主張したのはいいが、その具体的内容については「日米は役割をどう分担し、自衛隊は何を、どこまでやるのか」「実効あるメニューにしてほしい」などと一般論の注文だけにとどまり、突っ込み不足だったのは歯がゆい。

◆日本は防衛力強化を

 新指針を「自衛隊と米軍の役割分担を決める政府間の重要文書」とする産経は「これに基づき、自衛隊や米軍は個別または共同の作戦計画を立てて行動する」と解説した。同じ注文も「日本やアジア太平洋地域の平和と安定を確保するには、日米同盟の下で十分な抑止力が発揮されなければならない」と大局を論じた上で「閣議決定をことさら限定的にとらえ、自衛隊の行動を過度に抑制するようなことは避けるべきだ」と主張。会談で小野寺氏が表明した離島奪還や災害救援用の強襲揚陸艦の導入検討など、日本の防衛力整備の具体的取り組みを評価したことは頷(うなず)ける。

 読売は、閣議決定で、自衛隊の米艦防護や米軍への補給・輸送支援の拡大が可能になり「周辺有事では、自衛隊がこうした米軍支援を行う。武装集団による離島占拠などのグレーゾーン事態では、米軍がより迅速に自衛隊と共同対処する。こんな双方向の協力を新指針で打ち出したい」と具体的に言及。産経の大局観と同様に「日米同盟の実効性を高めることが肝要である」との主張は、自主防衛力向上を強調した小紙の主張とともに正論である。

(堀本和博)