不透明さ残す日米同盟
先月24日の日米首脳会談は日米同盟を確認する意味で一応の成果を収めた。ただ日米関係が今後どのように進化してゆくかに関しては、まだ不透明な部分が多い。(ワシントン・久保田秀明)
オバマ政権、米中「新型大国関係」にも前向き?
孤立主義的な国内経済優先
今回の日米首脳会談は、尖閣諸島をめぐる日中の対立や北朝鮮の金正恩体制強化など日本を取り巻く北東アジア情勢が変化し、地域の緊張が高まる中で行われた。
会談後の共同記者会見で、オバマ大統領は「尖閣諸島も含め日本の施政下にある領土はすべて、日米安保条約第5条の適用対象になる」と明言した。米大統領による尖閣諸島への安保適用の公式発言は初めてのことで、日本側も「磐石」(安倍首相)な日米同盟を再確認したものとして評価している。
とはいえ、日米同盟が現実にどのように機能するかについては、まだまだ不透明な部分が多い。とくにオバマ政権の北東アジア、日本への防衛コミットメントの度合いについて疑問が残っている。ロシアのクリミア編入、現在も軍事的緊張が続いているロシアとウクライナの関係も北東アジア情勢に微妙な影を落とす。
例えば、オバマ政権の北東アジア全体への取り組み姿勢がどこまで本物なのかという疑問だ。オバマ政権は1期目でアジアに「軸足を移す」という表現で欧州・中東重視からアジア重視に転換する姿勢を打ち出し、2期目に入ってもアジア太平洋地域への「リバランス(再均衡)」の方針を確認した。
しかし現実には、同政権の外交を担うジョン・ケリー国務長官は、中東を頻繁に訪問し、イスラエルとパレスチナの和平交渉、イラン、シリアなどの問題に力を入れて取り組んできた。さらにロシアのクリミア編入を前後しては、欧州への対応が同長官の最優先課題のように見える。ケリー長官は先月30日、「ロシアが東・中欧の安全保障の風景を変えようとしている」と述べ、北大西洋条約第5条に定める集団的安全保障によりウクライナ周辺の加盟国を防衛する考えを強調した。
国防予算縮小を余儀なくされている米国には、2正面で同時に戦争を遂行する余力はない。北東アジアと欧州で同時に有事が発生した場合、米国はどちらに軍事介入するのか。その問いに対する明確な答はない。
ケリー長官はともかく、オバマ大統領が今回日本はじめアジア4カ国を歴訪したのだから、それが何よりのアジア重視の証ではないかという見方もある。しかしオバマ大統領は本来、昨年10月にアジア歴訪を行う予定だった。その時、米国内の予算折衝が難航したため、同大統領はアジア歴訪を取りやめた。その延期したアジア歴訪を今回遅ればせながら実施したにすぎない。
その根底にあるのはアジア歴訪よりも国内経済問題を優先したオバマ大統領の国内重視姿勢であり、一部にはオバマ政権の孤立主義的傾向、外交軽視の表れとの見方もある。
オバマ大統領の外交姿勢全般にも少なからず疑問がある。日米の軍事・外交専門家の中には、クリミア情勢と尖閣諸島の状況を重ね合わせて考える専門家が少なくない。ロシアが一方的にクリミアを編入し、ロシア・ウクライナの国境の現状を力で変更した時、オバマ大統領は早い段階で米国による軍事介入の可能性を排除した。
中国が力により尖閣諸島の現状を変更しようと動き出す場合、オバマ政権は同じ対応をし、軍事的には介入を拒否するのではないかという懸念が日本にはある。米国内でも、共和党保守派から、オバマ大統領の軍事介入を忌避する姿勢を「弱腰外交」として批判する動きが強まっている。
日米同盟の今後を不透明にしているもう一つの要因は、米中関係の深化だ。中国の習近平国家主席は2012年12月の訪米で、米中の「新型大国関係」を打ち出した。これは米中両国が大国として平和共存し、国際秩序の運営を共同して主導するという概念である。 その後、中国は「新型大国関係」構築の条件として、中国の台湾、新疆ウイグル自治区などに対する中国の主権を米国に認めさせようとする動きを強めており、さらにその延長線上に東シナ海、南シナ海への主張も含める兆候がある。米政府はこの「新型大国関係」を前向きに受け入れる兆候があるが、これは日本が米国に求める尖閣への防衛コミットメントとは明らかに相容れない。
来年は第2次世界大戦終結70周年だが、現在日本と近隣諸国の間で表面化している歴史問題を含め、日米同盟にとって大きな節目の年になりそうだ。それまでに解決すべき日米同盟関係の課題はまだ多い。