ベネズエラのマドゥロ大統領、反対派と対話

 ベネズエラの政治危機を受けて、反米左派マドゥロ大統領は反大統領派の野党指導者らと対話を行った。しかし、対話は平行線に終わり、反政府デモなどベネズエラの国内情勢は改善の兆しが見えないのが現状だ。(サンパウロ支局)

退陣要求デモは継続

品不足・犯罪増加で不満ピーク

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ベネズエラの首都カラカスで支持者に手を振るマドゥロ大統領=15日(EPA=時事)

 「食料を買うために何時間もスーパーマーケットの前に並ばなければならない」「世界の人々にベネズエラの現実を知ってほしい」「(デモ隊を鎮圧するために使う)催涙弾の会社だけが成長企業だ」。どれもが、ここ数カ月の間、フェイスブックやツイッター、ユーチューブなどのSNSや簡易ブログを通じて、多くのベネズエラ国民が国内外に向けて訴えている内容だ。

 南米きっての反米左派首脳だった故チャベス大統領の死去から1年。チャベス氏が強いカリスマ性で率いてきた強権政治は、ここに来て屋台骨が揺らぎ始めている。

 ベネズエラの国内状況は深刻だ。同国は、世界有数(中南米最大)の石油産出国として石油輸出国機構(OPEC)の主要メンバーだ。本来ならば、オイルマネーで潤沢な財政状況にあるはずだった。

 しかし、10年以上にわたるチャベス政権下において、当初ベネズエラ経済は、高騰する一方の原油価格に支えられた。しかし、主要企業の国営化や貧困層に対する社会保障に重点をおき続けた結果、同国経済は低成長に陥り、財政状況は悪化の一途をたどった。

 さらに、ベネズエラ社会と国民は、凶悪犯罪の増加、インフレ進行、食料品など生活必需品の慢性的欠乏など多重苦に追い込まれている。

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17日、ベネズエラのカラカスで、反政府デモ隊が投げ付けた火炎瓶をよける警官(AFP=時事)

 当然のことながら、国民の不満は高まっている。首都カラカスや地方都市でも、日常品や食料、各医薬品の入手が困難な状況となっており、国外脱出を図る人々もいるという。

 最近の世論調査では、反大統領派だけでなく、社会全般に現政府に対する不満が高まっていることも明らかになっている。十数年もの間、国民から高い支持を得てきたチャベス派にとって深刻な調査結果だ。

 こうした中、今年2月に学生たちが中心となって始まったマドゥロ大統領の退陣を求める反政府デモは、反大統領派の野党政治家の賛同を得ると、一気に高まりを見せた。

 反大統領派によるデモ隊と大統領支持派や治安部隊との衝突は、反大統領派のデモ参加者を中心に40人近くの死者と数百人以上の逮捕者を出す事態に発展している。

 米国など米州機構の加盟国はベネズエラの事態に相次いで憂慮を表明。その後、米州機構加盟国の仲介で今月11日、首都カラカスの大統領府において、マドゥロ大統領と反大統領派の代表らが、「ベネズエラ政治危機」の平和的解決をさぐるために、初の公式対話を行った。

 会談には、マドゥロ大統領と反大統領派で野党指導者のカプリレス氏(元大統領候補)に加えて、会談を仲介したブラジルとエクアドルの外相も参加した。ベネズエラ国内にテレビ中継された会談は6時間に及び、国内政治危機の回避に向けて話し合いが行われた。しかし、双方とも譲歩の姿勢を見せず大きな進展は見られなかった。会談はその後も続いているが、状態を劇的に打開する妥協案は出ていない。

 11日の会談を受けて、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長も、会談の実現を歓迎する旨の意向を発表、マドゥロ政権と反大統領派に対して、対話による国内危機からの脱却を呼びかけた。また、ローマ法王からも、対話の進展を期待する内容が書かれた書簡が届いているという。

 ベネズエラの政治危機打開に向けて、憲法にのっとった民主的な政治解決を、大統領派と反大統領派、米州機構などの国際社会は求めてきた。

 ベネズエラの国内情勢は、想像以上に緊迫しており、同国では先月25日、クーデターを企てた容疑で空軍の将校3人が逮捕された(政府発表)。さらに、反大統領派と大統領の対話実現にもかかわらず、反政府デモは続いており、反大統領派の学生は「マドゥロ大統領の辞任までデモを続ける」と明言している。

 しかし、何より深刻なのは、生活必需品の不足や物価高、凶悪犯罪の増加に対して、ベネズエラ国民の不安と不満がピークに達しつつあることだ。