「アジアのデトロイト」争奪戦

先行タイをインドネシア急追

 「アジアのデトロイト」を目指して走ってきたタイを2番手のインドネシアが急追している。世界最大のイスラム国家であるインドネシアの強みは、中東マーケットへのパイプがあることだ。自動車会社は国内市場をにらむだけでなく、インドネシアを海外輸出基地として活用することを考えている。(池永達夫)

中東市場向けの輸出基地に

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昨年9月、インドネシアの首都ジャカルタで開かれた「インドネシア国際モーターショー」のダイハツ工業展示ブース(時事)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は、経済成長の上昇気流に乗る格好で、1980年代初頭からモータリゼーションの時代を迎えた。各国とも先を争うように自動車産業育成に着手したのもその頃だ。しかし、インドネシアはアジア通貨危機が政情不安を招き寄せ、マレーシアはナショナルカー・プロトン車優遇政策がネックとなるなど、外資参入の障壁となった経緯がある。

 そうした中、「アジアのデトロイト」構想を政権交代や通貨危機などでも、ぶれることなく、国策として一貫して温めてきたタイは、優遇税制や少ない投資規制などを武器に自動車産業関連の外資誘致に成功。GMやフォード、トヨタといった大手自動車メーカーだけでなく、その底辺を支える部品産業もタイ進出を大挙して果たすようになり、自動車産業の集積を着実に進めてきた。

 タイ工業連盟(FTI)自動車部会が年初、発表した2013年の自動車生産総数は前年比0・1%増の245万7000台となり、ほぼ横ばいながら過去最高を更新した。国内販売台数は6・7%減の133万6000台と落ち込んだが、輸出が9・8%増の112万1000台と伸びている。

 ただFTIは、国内需要の低迷が続いているほか、国内の政情不安の影響が読めないとして、14年の生産台数予測を明らかにしなかった。

 こうした中、タイに次ぐASEAN第2の自動車生産国であるインドネシアの急追ぶりが顕著だ。インドネシアは1997年のアジア通貨危機で、スハルト大統領が退陣に追い込まれるなど経済的波乱が政治を巻き込む格好となったものの、人口2億3000万人を擁する大きな国内市場と廉価な労働市場が誘因となって進出企業が後を絶たない。

 そのインドネシアは一昨年、自動車生産で初めて100万台を突破した。昨年は122万台と好調な上昇機運にある。このためトヨタが昨年、第2工場を立ち上げたほか、ホンダも今年、第2工場を稼働させ、日産も2年後、年間生産台数を25万台に増やすなど各社がこぞって生産能力増強を急いでいる。

 とりわけインドネシアに進出している自動車会社が力を入れているのが、海外への輸出だ。トヨタ自動車は今月下旬、インドネシアで生産した乗用車を中東に向けて本格的輸出を始めると発表した。

 トヨタは昨年3月、ジャカルタ郊外にある自動車のノックダウン(組み立て)工場の敷地に第2工場を建設し生産工場を増やした。狙いは海外輸出基地としてのインドネシア工場の生産力強化だ。

 トヨタは昨年の6万台だったインドネシアからの輸出をまずは8万台に乗せたいとしている。インドネシアは世界一のイスラム国家であり、中東への輸出に強みを発揮する地政学的メリットがあることから、トヨタとすれば今後、中東に向けて乗用車の輸出を本格化する方針だ。トヨタではインドネシアをタイに並ぶ輸出の拠点にしようとしているが、中東市場へはインドネシアからの輸出をメーンにしたい意向だ。

 こうしたインドネシアの自動車輸出基地構想にもろ手を挙げて歓迎しているのがインドネシア政府だ。

 ここ数年、成長率が6%を超える好調なインドネシア経済が踊り場を迎えている。インドネシア中央銀行が今月、発表した今年の経済予測では、これまでの5・8~6%の予測を5・5~5・9%と6%以下に下方修正した。

 その理由について中央銀行は、選挙による消費の下落、世界経済停滞による輸出の落ち込み、さらに1月から実施しているインドネシアで精錬していない鉱石の輸出禁止措置による影響などを挙げた。

 貿易赤字の影響がかなり大きいということだ。

 3月に発表された貿易収支統計では、1月の貿易収支は4億㌦(436億円)の貿易赤字となった。インドネシアは豊富な資源を有して、それを海外に輸出して外貨を稼ぎ出してきたが、鉱石の輸出禁止措置によって赤字が膨らんだ格好だ。

 これについてルトフィ商業相は、今回の赤字は政府政策として鉱石の輸出を取りやめたためだ。しかし、将来的には付加価値を伴った精錬したものを輸出できるようになるとして、強気の考えを示している。しかし、精錬できる施設を完成させるには、相当の時間と資本が必要だ。狙いは正しいが、事はそう簡単に進まない。

 こうした中での貿易赤字解消に役立つ自動車輸出基地構想を政府が歓迎しない手はない。