「STAP細胞」の疑惑でもリケジョ・小保方博士に興味本位の文春

◆正面から捉えた新潮

 “夢の細胞”など存在せず、捏造(ねつぞう)論文で日本は世界で恥をかくのか?

 世界の科学界を騒がせている「STAP細胞」について、理化学研究所が「中間報告」を発表した。だが、それを見ても、あまりはっきりしない。細胞は存在しており、再現実験ができていないだけなのか、それとも、初めからそんなものは存在しないのか 。

 論文執筆者の1人が30歳の女性だったことから、“科学的成果”以上にメディアの注目を集めた。週刊誌はじめメディアは「小保方(おぼかた)晴子博士」を「リケジョ(理系女子)の星」と持ち上げたのだが、疑惑が指摘され、レポートの不備が明らかになるにつれて、手のひらを返したように批判記事を載せだした 。

 白衣の代わりに割烹(かっぽう)着を着て、ピンクの研究室でブランド品を身に着けた研究者らしからぬ小保方さんに、茶の間のTV前のオジさんたちも当初は「新発見がすぐに証明されるわけではないから、もっと長い目で見てやるべきだ」と同情的だった。それが「こりゃ、怪しいぞ」という空気が漂い始める。週刊誌がそれを見逃すはずがなかった 。

 週刊新潮(3月27日号)は「特集、捏造にリーチ」の記事を書いている。理研が中間報告で「不自然な電気泳動の画像」「画像が博士論文のものと酷似」の2点について「改竄(かいざん)」や「流用」を確認したと言いつつも、「故意か過失か見極められない」というのは「不可解としか言いようがない」と同誌は呆れる 。

 共同研究者である米ハーバード大学医学部のチャールズ・バカンティ教授が論文撤回に反対し、それどころか「サルでもSTAP細胞の作製に成功し、脊髄損傷のサルに移植する実験で驚くべき成果を挙げている」と強気に出ていることで、理研は細胞の有無について結論を出しかねているのだ 。

 この点について同誌は、バカンティ教授の“素性”を取り上げ、彼は「幹細胞の門外漢」だと結論付けた上で、専門家の「国立大教授」に「おそらくSTAP細胞など、存在しないのでしょう」と言わせた。新潮にしては珍しいほど、正面から問題を取り上げている。

◆責任大部分は他の人

 それに対して、研究・論文の内容ではなく、小保方さん個人に焦点を絞ったのが週刊文春(3月27日号)だ。「乱倫な研究室」の記事はトップに掲載され、関連まで含めて8㌻を割いているから、相当な熱の入れようである 。

 内容は、STAP細胞の存在や論文捏造疑惑などよりも、小保方さん個人の人間性を論(あげつら)っており、「だから、研究も疑わしい」式の搦(から)め手で来ている 。

 同誌は「研究者はなぜ彼女の嘘を見抜けなかったのか」という疑問から始める。小保方さんは研究室の中心的指導者に「取り入って」協力者、支援者にする人物のようだ。それが論文の共同執筆者で「取り下げ」をいち早く提案した若山照彦氏(当時、理研チームリーダー、現山梨大学教授)であり、後には理研CDS副センター長の笹井芳樹教授だという 。

 笹井教授は「世界で初めてES細胞を神経細胞に分化させることに成功し、わずか三十六歳で京都大学医学部教授に就任。ノーベル賞候補とも言われるエリート中のエリート」で、「iPS細胞」でノーベル賞をとった山中伸弥・京大教授への強烈な「対抗心を燃やす」人物だという 。

 もし今回のSTAP細胞が功名を焦った詰めの甘い研究であり、剽窃(ひょうせつ)、捏造論文だったのだとすれば、記事からは、その責任の大部分が小保方さんと笹井教授の2人にあると読める。小保方さんばかりが注目される(その責任の多くはメディアにある)が、冷静に取材対象に向かっていれば、むしろ笹井教授の存在の方が大きいというわけだ。

◆過去追いはやり過ぎ

 同誌は「裏付けを取る、という報道の基本姿勢が欠けていたと言わざるをえません」と、「広島大学名誉教授の難波紘二氏」のコメントを載せている。これは同誌はじめ週刊誌が当初、若い女性研究者を持ち上げたことへの自戒の意味も込めたものなのだろう。だが、その“後ろめたさ”からなのか、「勝手に『彼氏いる』」と妄想を膨らませていた高校時代の小保方さんの過去まで暴くのはどう見てもやり過ぎだ 。

 「水に落ちた犬は叩け」は週刊誌の常だが、むしろ、確かな本当の成果が出せるような、日本の科学界の発展に資するような、激励の記事も見てみたいものだ。

(岩崎 哲)