中国の経済・金融危機の実態を分析するエコノミストの「思想」軽視
◆世界経済に影響危惧
2010年9月、尖閣諸島で起こった中国漁船のわが国巡視船への衝突事件以降、日中両国の間に溝ができ、安倍政権以降も靖国神社参拝、歴史問題などで軋轢(あつれき)が増幅している。折しも10年は中国がGDP(国内総生産)で初めて日本を抜き、米国に次いで世界2位に浮上した年である。
また、中国は89年以降、軍事費を前年パーセント比で2ケタ増の割合で拡張し続けているが、そうした軍事力を背景にベトナムやフィリピンなど周辺諸国に対し、ごり押しともいうべき領土拡張戦略を進めている。一方、米国は昨年11月、中国に関して「新型大国関係を機能させるよう目指す」と明言するなど、新たな米中関係の構築を図ろうとしている。
こうした中で週刊エコノミストは3月11日号で「中国危機の真相」と題する特集を組み、同国の経済危機について分析した。中国経済に関して、これまで至る所でバブル崩壊や経済成長の鈍化が指摘されている。実際、様々な経済指標をみても裏付けられており、今後もかつてのような高成長経済は望めないとされている。
そんな中で同誌は、中国経済が抱える負の部分を取りあげ、それが中国国内だけでなく世界経済に与える影響を危惧する。その一つが「理財商品」だ。同誌は「(中国政府は)償還が困難になった理財商品をデフォルト(債務不履行)させて、投資家に損失を負担させる強行着陸か、公的資金を投入して投資家を救済する軟着陸か、いずれでも世界経済に波及するリスクを抱える」と説明する。
そもそも理財商品とは、中国における人民元建ての資産運用商品のこと。特定の商品というよりも、日本でいうところの「資産運用」が「理財」に相当する。従って、信託会社が組成する信託商品も理財商品の一つとされている。定期預金よりも高めに設定され、元本・利子保証をうたい文句に売り出したところ、富裕層から国有企業までが財テクとして飛び付いた。
理財商品で集められた資金は、銀行の融資を受けることのできない中小企業や地方政府のインフラ整備に使われている。こうした銀行の正規融資以外の金融システムをシャドーバンキングと呼んでいる。現在、理財商品の規模は340兆円とされているが、近年、投資家に償還できないデフォルトが発生。今後、その規模が拡大するのではないか、との懸念があるのだ。
◆衝突を回避する米国
エコノミストは、理財商品に絡む問題について、次の点を指摘する。すなわち、①シャドーバンキングの機能不全で中国金融市場が混乱に陥る②中国政府が理財商品の損失を穴埋めするため海外の株式や債券(特に米国債)の大量売却に走る③中国の対外借り入れの急増、海外金融機関の対中国貸し出し絞り込みによる資金繰りの悪化でバブル崩壊する――という事態になれば、米国経済はもちろん、世界経済はもろに影響を被ることになる。
ちなみに、中国は1兆3200億㌦の米国債を保有している。米中の2国だけで世界の貿易総額の22%を占めるに至っている。
ある意味で中国の崩壊は米国の危機につながっていると言えなくもないが、問題は、こうした事態に米国がたじろいではならないことである。
オバマ大統領は「新型大国関係」という新しい米中関係の構築を目指そうとしている。つまり、「避けられない競争を管理しつつ、一致できるところはさらに協力を深めていく」としているが、実は、米中の「新型大国論」は昨年6月、習近平・中国国家主席が唱えたもので、いわば米中2国による太平洋分割案である。双方の核心的利益を尊重し、米中の衝突を避けるためアジア太平洋の共同管理を提案している。これは、暗に「東アジアでの紛争ごとに関しては中国主導で解決する」ことを米国に認めさせようというわけである。
◆経済で計れない思想
エコノミストでは前中国大使の丹羽宇一郎氏が「中国の分かりにくさや不透明さは社会主義資本という矛盾に満ちた体制だからだ」と述べ、「経済中心で中国との関係を深め、経済が政治を動かしていくのだ」と述べて、経済的な結びつきを強めるように提案している。
しかしながら、大事なことは経済交流だけではなく、現代中国を形作っている思想の本質、すなわち共産主義の本質とその思想に立脚した覇権国家構築のシナリオをしっかりと見抜くことであり、それに対応した戦略を描くことが求められている。
(湯朝 肇)