軽井沢バス事故遺族「再発防止につながる裁判を」
転落事故で大学生ら15人が死亡、長野地裁であす初公判
長野県軽井沢町で2016年、走行中のスキーバスが転落し大学生ら15人が死亡するなどした事故で、業務上過失致死傷罪に問われたバス運行会社社長高橋美作被告(60)と運行管理者だった荒井強被告(53)の裁判が21日から長野地裁で始まる。大学2年の次男田原寛さん=当時(19)=を亡くした父義則さん(56)=大阪府吹田市=は「再発防止の議論につながる裁判を」と訴える。
16年1月15日、義則さんと妻由起子さん(55)は、警察からの電話で軽井沢町に駆け付けた。10人ほどのひつぎが並ぶ遺体安置所には、眠っているような息子の姿が。「起きて、起きて」。由起子さんは必死に声を掛けたが、返事はなかった。夜は家族連れでにぎわう町内のホテルに宿泊した。「こんな思いをしているのに、どうしてこんなに華やかなんやろう」。悲しさが増した。
数日後に通夜が営まれ、義則さんは弔辞で「こんな悲惨な事故が起こらないような社会に、少しでも変えていく」と寛さんに約束した。遺品には「社会を変えるには」という本があった。「社会福祉士になって人の役に立ちたい」と話していた寛さん。「背中を押してくれている」。そう確信した。
通夜での約束を胸に、義則さんは発起人として遺族会を結成。国土交通省と意見交換をするなど再発防止に向けた活動を進めてきた。起訴を求める署名活動も展開。18年に4万7421人の署名を長野地検に提出した。「裁判にしないと、同じようなことが起きる」と危機感を共有し、署名してくれた人もいた。
事故から5年以上たち、ようやく初公判を迎える。義則さんと由起子さんは今年9月、事故現場にある「祈りの碑」を訪れ、由起子さんは「一緒に法廷に行こうね」と寛さんに話し掛けた。
義則さんは「なぜ事故が起きたのか。明確に、正直に話してほしい」と話す。一方、裁判を機に再発防止の議論が進み、悲劇を繰り返さない社会が実現することを求めている。「息子も聞いていてくれる。ぜひ今後につながる裁判になってほしい」と語った。