緊急事態延長で医療最優先論調が多い中、経済再開支持の産経、日経
◆ワクチン接種率向上
新型コロナウイルス対策で21都道府県に発令されていた緊急事態宣言が13日から、宮城、岡山両県を除く19都道府県で30日まで延長となった。また、11月のワクチン接種完了を念頭に、行動制限の緩和に向けた方向性も示された。
9日の政府対策本部の決定によるものだが、各紙はそろって社説で論評を掲載した。見出しを示すと次の通り。10日付読売「警戒緩めず医療の拡充を急げ」、朝日「医療再構築を最優先で」、毎日「第5波の収束が最優先だ」、産経「対策徹底し制限の緩和を」、日経「『緊急事態』見直しを経済再開の一歩に」、東京「医療の確保を最優先に」、12日付本紙「収束へ緊張感持続させよう」――。
列挙した通り、7紙のうち5紙が保守、リベラルを問わず、医療の拡充や医療最優先の姿勢を説き、行動制限の緩和や経済再開にまで言及したのは産経、日経の2紙にとどまった。
減少傾向が顕著になったとはいえ、感染力の強いデルタ株により、これまでにない感染者数の増大で大きな波となった第5波。拡大と減少を繰り返し、容易に収束へとは至らない状況から、多くの新聞が「警戒を緩めず、医療提供体制の拡充に努めなければならない」(読売)などとするのも尤(もっと)もである。
ただ、注目したいのは、日経が指摘するように、「過去の流行時に比べウイルスに向き合う手段はかなりそろった」ことである。
国内のワクチン接種率は7割を超え、2回完了も5割近い(13日には5割を超えた)。接種後の感染例はあるが重症化は少ない。また、抗体治療薬点滴も普及し始め、重症化の防止に役立っている――として、日経は今回の宣言解除基準の見直しや宣言期間中の行動制限の緩和について、ワクチンの接種率向上を踏まえた「妥当な判断」とし、「感染対策と経済活動を両立させる重要な一歩としたい」としたが、同感である。
◆解除の基準を明確に
そんな日経が政府に注文するのは、宣言の解除基準について、である。政府は今回、新規感染者数よりも、医療の逼迫(ひっぱく)度合いを重視し、中等症や重症の患者が「継続して減少傾向にある」ことなどを含めたが、これでは基準があいまいで、客観的な判断がしづらいとの指摘もあることから、「具体的な数値を示せないか、工夫してほしい」としたが、その通りである。
また度重なる宣言で飲食業や観光業、小売業は大きな打撃を受けたとして、「産業界の意向にも耳を傾け、立て直しにつながる緩和策の内容や方法を詰めてほしい」としたが、経済紙らしい指摘である。
さらに、他紙の訴えと結果的には同様だが、宣言下での行動制限は感染の広がりを抑え医療負荷を減らすのが狙いであるため、「政府と自治体はそもそも宣言を出さずに済むよう、医療体制の整備に全力をあげるべきだ」とは道理である。
日経以上に「制限の緩和を」と強く主張したのが産経で、主張というより「それにしても政府の決定は遅すぎる」と怒っている感じである。
ウイルスとの戦いは長期戦であり、規制ばかり続けていたら、社会・経済活動が今まで以上に立ち行かなくなる。「判断材料がそろえば緩和をためらうべきではない」というわけである。
ただ、同紙の怒りも分からないではないが、前述のように訴えた後で、制限緩和はワクチンの普及が前提であると言い、行動制限を最小にするために病床を拡充することが欠かせない、とも指摘する。そう言わざるを得ない状況で「判断材料がそろう」と言えるのか。決定が遅過ぎるとの批判は、やや乱暴に過ぎまいか。
◆治療薬併用も効果的
他紙ではコロナとの戦いで、本紙がワクチンと治療薬との併用が効果的なことは明らかとして、早い段階での抗体カクテル療法や、インドなどで効能が明らかとなっているイベルメクチン普及の推進を挙げているが、一つの見識である。
(床井明男)