緊迫する台湾情勢を歴史で読み解き「Zデー」を予測するNW日本版
◆河野氏は「変」と新潮
本稿掲載時には自民党総裁選の火蓋(ひぶた)が切って落とされ、野党言うところの「自民党による電波ジャック」状態になっていることだろう。
週刊誌各誌は候補の品定めを特集しているが、日々目まぐるしく変わる情勢を追い掛けられるわけもなく、勢い背景説明になりがちだ。そこで、総裁選を背後で仕切っている、というと大げさだが、強く影響を与えているのは誰か、に関心が向く。
サンデー毎日(9月26日号)は「安倍晋三の高笑い」をトップに載せた。候補の誰もが「安倍にすり寄って」いるという見立てだ。河野太郎行政改革担当相ですら、主義主張を引っ込めるか、弱めるかして、「キングメーカー」安倍氏に「忖度(そんたく)」していると書く。
そういう河野氏を「変な男」というのは週刊新潮(9月23日号)。インターネット交流サイト(SNS)のフォロワーが「240万人」というずば抜けた「発信力」を持ちながら、政界に「友だち」がいない「異端児」だと紹介する。
「総選挙の顔」のために、当選1~3回生たちは河野氏を推す人が多いというが、一歩引いてみれば、この人の考えは相当に「変」だ。「小石河連合」(小泉、石破、河野)を組んで、大衆を引き付け選挙用に持ち上げたところで、政権を任せて大丈夫なのかも考えるべきだろう。
◆侵攻に必要な大艦隊
と、ここまでは前振りとなる。今回取り上げたいのは「台湾」だ。メディアが総裁選に目を奪われている間にも、世界は動いている。ニューズウィーク日本版(9月21日号)が特集「歴史で読み解く台湾情勢」を載せた。
今年に入って米国では「中国の台湾侵攻の可能性」が論じられている。3月の上院軍事委員会でデービッドソン米インド太平洋軍司令官が「6年以内」と言い、その後、アキリーノ次期司令官が「大方の見方よりもずっと近づいている」と警告した。
同誌は「Zデー」を予測した記事も載せている。「ゼロデー」の意味だが、台湾の地形を見れば、台湾海峡に面した西海岸は平地も多く、都市、人口、インフラが集中している。長い海岸線を攻めたノルマンディー上陸作戦(「Dデー」)とは条件が異なる。
何よりも、侵攻兵力を中国は送り込めない。攻める側は守備軍の3倍から5倍の兵力が必要で、「人民解放軍の指揮官としては少なくとも135万人、もしかすると225万人程度の兵力は確保したい」計算になる。ところが肝心の輸送手段が全く足りない。運ぶのは兵員だけではなく、戦車、大砲など武器、装備もあるのにだ。
同誌は、「数千あるいは数万隻の大艦隊になる可能性がある」として、「その大半は海軍の艦船ではなく、曳航船や給油船、遊覧船やフェリー、漁船、貨物船などが動員されるだろう」と予測する。仮に民用船を動員すれば産業が止まってしまう。
ところが中国はこれができてしまう。「習近平国家主席によれば中国共産党の最大の強みの1つは、特に非常事態に国民に集団行動を強制し、大攻勢に打って出られる能力」で、国民大動員ができるのだ、と同誌は危惧する。
◆曖昧な米政権の政策
ただ、この特集は肝心な点を見落としている。ハイブリッド戦略である。ロシアがクリミア半島を併合(へいどん)したように、浸透工作で台湾に親中政権を打ち立て、融和世論を醸成し、台湾を併呑する「戦わずして勝つ」孫子の兵法も並行して発動されていることだ。火力でインフラと人材を破壊するという愚かなことを中国が本気で考えているとは思えない。
もっとも、これは対中融和的な国民党が政権を失ったことを見れば、台湾市民に中国の工作が浸透しているとは言えない。次の総統選でどうなるかは分からないが、今は日米をはじめ自由世界が台湾を孤立させず、防衛の意思を明確に打ち出すことだ。「バイデン政権の台湾政策が曖昧」という同誌の指摘は非常に気になるところだが。
(岩崎 哲)