SNS精子提供による出産を「多様な生き方」と正当化した「クロ現」

◆ネットで提供者探し

 自民党の総裁選候補者の一人、党幹事長代行の野田聖子(61)は米国ネバダ州まで飛んで卵子提供を受けて障害を持つ子供を出産したことは自身の著書でも書いている。その野田が立候補に際し、「自民党の多様性」を強調した時、危なっかしさを感じた。一般論として多様性が大切という主張はあるが、卵子提供による出産も認める彼女が多様性を語る時、何をイメージしているのか。原則を欠いた多様性は暴走する危険をはらむ。

 14日放送のNHK「クローズアップ現代+」は「広がる“SNS精子提供”」をテーマに、レズビアンカップルや独身女性が多様な生き方を求める中で、ネットで精子を提供してくれる男性を探し出産している実態を追った。

 だが、筆者には、多様な生き方の暴走としか思えない内容だった。放置しておけば、精子に値段が付いて差別の助長にもつながる。野田にSNS精子提供による出産も認めるのかと聞いてみたくなった。

 番組によると、SNS上には現在、精子提供のアカウントが300以上もある。筆者も検索してみたが、金やセックス目当てだなと推測できるものが多かった。

 ドナーの精子を使った妊娠は、病院で試みられてきた。しかし、その対象となるのは、結婚している夫婦で、夫が無精子症の場合に限られる。理由は、生まれてくる子供の福祉のためで、多様な生き方を支援するためなどではない。SNS精子提供には、エイズウイルス(HIV)や性行為感染症などのリスクがあることは番組も指摘していた。

◆医者の手借りず妊娠

 では、医師の手を借りずに、どうやって妊娠しようというのか。ネット情報によると、二つの方法がある。

 一つは「シリンジ法」と呼ばれるもので、針のない注射器のような器具を使って精子を女性の体内に入れるもので、多くはこちらの方法だという。もう一つは「タイミング法」で、排卵に合わせて性行為を行う方法だが、筆者には子供が欲しいという女性の願望に付け込み、男が性欲のはけ口にしたがっているとしか思えない。

 取材に応じたのはレズビアン、結婚はしないが子供は欲しいという「選択的シングルマザー」、そしてトランスジェンダーの「男性」夫婦だ。

 一方、どんな男性が精子を提供するのか。番組には「レズビアンの生き方に深く共感した」という男性、それに年に100回程度提供し、これまでに50人以上の子供が生まれたという男性も登場した。生まれた子供たちが自分に多くの異母兄弟がいることを知らなければ、将来、彼ら彼女たちが出会って恋愛関係になるということも起こり得ない話ではない。

 子供が父親を知りたくなったらどうするかという問題もある。ある精子提供者は「子供が成長して、父親の顔が見たいという話になったら、それはお断りすることはないと思う」と語ったが、いつ心変わりするか分からない。

◆欲望の暴走防ぐ知恵

 精子提供による出産には当然、「親のエゴ」「モラルハザード」という批判の声が上がる。しかし、コメンテーターとして出演した作家、川上未映子は「出産はほぼ親のエゴ」という。結婚した男女の自然な営みの中で出産することも精子提供で命をつくることも、同じ「親のエゴ」だから批判は当たらないというのだ。ならば、タイミング法も認めるのか。川上の指摘は的外れだ。エゴや欲望の暴走を防ぐ知恵としてあるのが男女一組に限定した婚姻制度とみるべきなのだ。

 卵子提供で出産した野田や、「同性婚」を認める規制改革担当相、河野太郎が保守政党の総裁選の座を争っている。また、立憲民主党も次期衆院選の公約に「同性婚の実現」を掲げる今、NHKがこの問題を取り上げるなら、多様性の暴走にどう歯止めをかけるのか、という視点の番組にすべきだったのだ。

(敬称略)

(森田清策)