“真央ちゃん”賛辞をファン目線で豊かな共感にした読売「編集手帳」

◆名言紡いだ各コラム

 雪と氷の上の熱戦17日間。ソチ冬季五輪(ロシア)が23日(日本時間24日未明)に幕を閉じた。日本の獲得メダル数8(金1、銀4、銅3)は、8位までの入賞数28とともに海外開催の五輪では過去最多。国内開催を加えても、金、銀、銅各1でメダル数3だった札幌五輪(1972年)を上回り、メダル数10(金5、銀1、銅4)の長野に次ぐ好成績を上げた。

 今回の五輪でも、ジャンプで銀と銅二つのメダルを獲得し41歳のレジェンド(伝説)となった葛西紀明選手やショートプログラムで史上最高点を記録しフィギュアスケート男子で日本初の金メダルに輝いた羽生結弦選手(19)、冬季五輪の雪上競技で最年少メダリストとなったスノーボード・ハーフパイプ銀の平野歩夢(あゆむ)選手(15)らがメダルの喜びのドラマとともに大きな感動を届けてくれた。

 その一方で、五輪が紡ぐドラマはメダルだけではない。メダル獲得はならなくても、それを超えた先にある劇的ドラマの展開で歓喜の涙、歓喜の笑顔で爽やかで最高の感動を共感させてくれたのが、フィギュア女子の浅田真央選手だった。選手団の帰国会見は一昨日、メダリストが都内ホテルで、浅田選手が日本外国特派員協会でそれぞれに行われたが、浅田選手のスマイルはメダリストの歓喜に勝るとも劣らない明るさで会場を盛り上げたのである。

 今回は趣向を変えて、ソチで演じた浅田選手のドラマを新聞コラムはどんな名言で紡いだのか、看板コラムをめぐって、改めてあの素晴らしい感動の世界を蘇(よみがえ)らせたい。

◆虹色をメダルの色に

 「春秋」(日経22日)と「天声人語」(朝日同)は、浅田選手のフリーの演技曲をコラムの種にした。春秋は「リンクに流れるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。おごそかな調べに乗ってトリプルアクセルを決め、それから先は華麗なジャンプ、ジャンプ、ジャンプである」「メダルには届かなかったが、それはたいした問題ではない。あきらめない心、可能性に挑む勇気の大切さを、この大健闘は教えてくれたのだ」と。

 伊藤みどりがラフマニノフの第2番で銀を射止めたこと、作曲家はどん底から立ち直ってこの名曲を作曲したというエピソードに触れたあと「(初日を終えて)浅田さんはまさかの16位。落胆は察して余りある。しかし選んだ曲の誕生に重ねるように、失意から立ち上がり、見せてくれた自己最高点のフリーだった」「前日の失敗という雨に降られたあと、見事に晴れて懸かった虹に私たちの目も潤んだ。メダルの色を超えた、有終の七色である」と天声人語。虹の七色をメダルの色に重ねる芸術的表現で感動を伝えたのはさすが。

 上昇気流(小紙同)も、「五輪のドラマは、あくまでメダルを目標に競い合う中で生まれる。それでも、やはり『メダル以上のもの』があることを、今回の浅田選手の戦いほど感じさせたものはない」とメダルを超えた感動に迫った。「筆洗」(東京同)は感動を演技後の15秒間に凝縮した。「フリーの演技を終えると、天を仰いだ顔が感情がはじけるのを抑えるかのようにゆがんだ。およそ十五秒後、気持ちを切り替えるようにうなずくと、真央ちゃんスマイルになった」「あの十五秒間、どんな思いが去来したのだろう。四分間の演技と同じように美しく、胸を打つ十五秒だった」と。

◆さりげないが安心感

 当代随一のコラムとその評価も定着した「編集手帳」(読売同)。同じ「にすい」の部首で正反対の意味を持つ「凋(しぼ)(む)」と「凜(りん)(として)」の漢字を引き出した。「凋んだ心のまま、おざなりに流すのか。それとも、凜として舞うのか。さあどっちだと、氷の神様もなかなか意地が悪い。その意地悪な問いに、完全燃焼することで答えた」。さらに思索を深めて、観衆を魅了した浅田選手の負け方の美を「負けと決まったあとに、全身全霊を込めるのは誰にでもできることではない。その強い心にテレビの前で、にすいの言葉をもう一つ、『凄い』とうなった方も多かろう」と突き詰める。

 金を超える「七色のメダル」も悪くないが、氷の神様のテストにパスしたという賛辞はその上をいく。それでいながら、コラムは「ときに金メダルよりも美しいものに出会うから、五輪観戦はやめられない」と結ぶ。さりげないが、ファンと同一目線に立つ安心感が感動の共感をさらに豊かなものにしてくれる。

(堀本和博)