コロナ禍の日本経済、下期の景気回復を予測する強気のエコノミスト

◆ワクチン普及で好転

 新型コロナウイルスのデルタ株が今なお猛威を振るっている。日本国内でもワクチン接種は急ピッチで行われているが、それでも感染拡大は止まりそうにない。そこで次の関心は、この新型コロナはいつ収束するのか、ワクチンは効果があるのか、さらに新型コロナで疲弊した日本経済はいつ回復するのかなどの点になるが、国民が疑問と不安を抱える日々は続く。

 そうした中で、経済2誌が今年下期の経済動向、さらには新型コロナ以降に抱える課題について分析していた。週刊エコノミスト(8月10・17日合併号)は、「2021年下期世界経済&マーケット総予測」、週刊東洋経済(8月21日号)は「『コロナ後の経済』大難問」をテーマに特集を組んだ。東洋経済は一応「コロナ後の経済」としているが、リードには「ワクチン接種で経済再開に沸く米欧中と、回復の鈍かった日本。そこへ変異型ウイルス『デルタ株』の猛威が襲っている。今年度下期以降の経済・社会・金融マーケットを展望する」としている。

 そこで日本経済の動向を見ると、エコノミストは総じて楽観的で、「緊急事態宣言が実体経済に致命的なダメージをもたらすことはないだろう」(河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト)とし、「高齢者を中心にワクチン接種が広がれば、これまで抑えられていた旅行や外食などのペントアップデマンド(繰り越し需要)が現れ、景気回復を一気に加速させる」と強気の見通しを立てる。さらに、株価に至っては、「仮に(コロナ感染の再拡大といった)ネガティブシナリオになっても、大規模な財政・金融出動で、相場は最後には浮上する」(広木隆・マネックス証券チーフ・ストラテジスト)とした上で「年度末には日経平均は3万5000円になるだろう」(同)とさえ言ってのける。

◆東洋経済はやや慎重

 一方、東洋経済は幾分慎重な見方を取る。同誌は国内の有力エコノミストに日本経済見通しをアンケート調査しているが、21年度、22年度の国内総生産(GDP)実質経済成長率については「21年度は(20年度の)反動でプラスにはなるが、回復は鈍い見通しだ。…21年度の世界経済は米中が大幅回復するが、22年度は(日本経済の)伸びが鈍化するとみられる」とし、「日本の景気回復は一筋縄ではいかない。…漫然と緊急事態宣言を繰り返していたのでは経済の低迷から抜け出せない」と結論付ける。

 ところで、以前から日本はあらゆることに対して「対応の遅さ」が指摘されている。かつてバブル崩壊から回復まで20年近くかかり、その間を「失われた20年」と揶揄(やゆ)された。今回の新型コロナについても、ワクチンの供給が他の先進国に比べて極めて遅かった。これについても両誌は指摘する。

 東洋経済は、「ワクチン・治療薬開発の遅れなどコロナ禍での日本の基礎科学技術力の弱体化が浮き彫りに。基礎・応用の両面で、国の資金投入やインセンティブによる研究開発の抜本的支援を」(嶋中雄二・三菱UFJモルガン・スタンレー証券参与)と訴える。

◆国防に不可欠な製薬

 一方、エコノミストは「(今回の新型コロナで)政府も喉元過ぎれば忘れるだろう。ファイティングポーズで予算を付けているだけで、国際競争力を保って抜本的な開発をしようという姿勢はどうも見えない。製薬は国防産業だ。なぜ製薬が弱いのか、国のあり方としての投資から考える時期に入っているが、日本にそのビジョンがない」(峰宗太郎・米国国立研究機関研究員)と厳しい指摘を投げ掛ける。

 今回の新型コロナは、日本経済ばかりでなく世界経済に大きな損害をもたらしたが、何よりも重要な点は、国防は単に軍事力だけではなく、パンデミック対策としてのワクチンの研究開発などソフトの分野の備えも必要だということを教えていることだ。

(湯朝 肇)