世論で輿論を制御し自民党政権崩壊もくろむイデオロギー闘争の朝日
◆五輪反対論は「世論」
メディア史を専門とする京都大学大学院教授の佐藤卓己氏が持論の「輿論(よろん)」と「世論(せろん)」の違いを朝日紙上で語っている(17日付オピニオン面)。
「世論は世間の評判、付和雷同というニュアンスを持つ一方、輿論は異なる少数意見を想定し、説得すべき他者を見すえた多数意見という意味がありました。民主主義では輿論によって世論を制御することが肝要なのです」
では、朝日が掲げた五輪開催反対(5月26日付社説)は世論か、輿論か。佐藤氏は「社説が出る前から、五輪への支持率が低いことは世論調査で明らかになっていました。調査結果の報道前に書けば勇気あるオピニオン(輿論)だったと思いますが、国民感情を盾に社説を出したように見えました。世間の空気(世論)を反映しているだけだから大丈夫、という心理も働いていたように感じます」と、朝日の五輪反対論を「世論」と見なして諫めている。
とすれば、読売、産経、本紙らの保守紙は世論に抗して五輪開催の意義を説き、五輪後の世論調査では「開催してよかった」が6割以上を占めたのだから世論を見事に制御したことになる。佐藤氏の論に従えば、民主主義を体現しているのは輿論の保守紙。五輪報道の白黒はこれで決まりとしよう。
◆周到に“空気”づくり
もっとも、朝日にとっては屁(へ)の河童(かっぱ)。こう言うだろう。単に国民感情を盾に社説を打ち出したわけではない。世間の空気をつくり上げたのはわれわれだ。その世論を根拠に論調を張った、と。この手法で国民世論を左へ左へと引っ張ってきたのが朝日だ。
5月の社説以前に用意周到に反五輪キャンペーンを張っていた。例えば社会面での共産党系病院の「医療は限界 五輪やめて」(5月7日付)、あるいは「聖火リレー中止検討など奮闘する知事たち 命を守るリーダーか、目をこらそう」(4月5日付「取材考記」)、「国立周辺で開催反対デモ 東京五輪」(5月10日付)、楽天グループの三木谷浩史氏の「東京五輪開催は自殺行為」との米CNNインタビュー(5月15日付)などだ。
また社説では「五輪とコロナ これで開催できるのか」(4月23日付)、「五輪の可否 開催ありき 破綻あらわ」(5月12日付)。こんなふうに社論を張り、世間の空気をつくり出した上で5月の「中止の決断を首相に求める」との“決め社説”を掲げた。つまり朝日は世論によって輿論(正論)を制御しようとしたのだ。言ってみれば、イデオロギー闘争だ。
コロナ報道はどうだろう。政府は当初、ワクチン接種で感染者を抑え込むシナリオを描いていたが、デルタ株の強い感染力の前に脆(もろ)くも崩れ、爆発的感染を招いている。菅義偉首相は「ワクチン1本打法」から、「医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種」の3本柱へと転換し、緊急事態宣言やまん延防止措置も拡大した。
とりわけ医療体制が問われている。それで読売は「国は医療確保へ万策を講じよ」、産経は「抗体療法の拠点整備を急げ」、日経は「緊急事態の連発より医療体制の拡充を」(いずれも8月18日付社説)と主張する。各紙は「資源総動員し医療崩壊防げ」(本紙20日付社説)との共通認識に立っているように思う。
◆誰も信じない建前論
ところが、朝日は「国会開き、覚悟を示せ」(18日付社説)と奇怪なことを言う。「野党が求める臨時国会の開会に早急に応じる。政府と与野党が手を携えて対策に知恵をしぼり、国会質疑を国民への情報開示と協力呼びかけの場とする」。誰がこんな青臭い建前論を信じるだろうか。
だいたい野党から代案を聞いたためしがない。追及の修羅場にするだけだ。蓮舫氏の国会質問を見れば一目瞭然。コロナ対策の足を引っ張るのがオチだ。むろん朝日は先刻承知。要はコロナを使って菅政権を追及し自民党政権を崩壊させる。野党と相通じる国会開催論だ。どこまでもイデオロギー闘争の朝日なのだ。
(増 記代司)