タリバンへのジェンダー論から番組の自己批判になった「サンモニ」
◆フェミニストが楽観
世界はアフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが返り咲いたことに当惑している。デルタ株に置き換わった新型コロナウイルス感染第5波の話題が報道番組を埋め尽くす中で、22日放送のTBS「サンデーモーニング」はアフガン情勢も取り上げていた。だが、タリバンと女性の権利で対極にあるフェミニストの出演者の発言を、司会の関口宏氏が番組の謝罪をもって引き取る珍展開だった。
番組は、かつてのタリバン政権が、世界遺産・バーミヤンの石仏を「偶像」として爆破したことや女性の就労、教育を認めないなどイスラム主義支配を敢行したことを指摘。2001年に9・11同時多発テロの被害を受けた米国が、実行犯のテロ組織アルカイダをかくまったアフガンを攻撃、米軍などによる占領から撤退までの20年をおさらいした。
当然ながら女性出演者が問題にしたのは、タリバンが女性の就労や教育を再び禁じることへの懸念だ。しかし、ここでタリバンの女性教育禁止に反対したマララ・ユスフザイさんをタリバンが銃撃(パキスタンでだが)したような、タリバンの女性への蛮行を非難するかと思いきや、話はジェンダー論になった。
「タリバンの広報官が女性の人権については、イスラム法の範囲内という言葉は使っているものの、認めていくという発言があった」と注目したフェミニストで大阪芸術大学客員准教授の谷口真由美氏は、「国際社会がこの数十年、ジェンダー主流化をやってきた効果はあったかと見ている」と述べ、意外と楽観的だった。
さらに、「ジェンダー主流化は、政治も経済も社会のあらゆる層や場において主流に置いていかないといけないということで、タリバンですら国際社会の厳しい目が、ジェンダーの問題では目線が注がれていると自覚している証だと思う」として、むしろタリバンの姿勢を評価したのだ。
果たしてどうなのか?「ジェンダー平等」達成を優先しようというジェンダー主流化が本当にタリバンに影響しているのか――疑問が残った。
◆尾を引く張本氏発言
すると関口氏が謝りだしたのである。「サンデーモーニングでもジェンダーに関して問題を起こした。大変申し訳なかったと思っている。うちの番組も勉強しながら取り組んでいかなければならないと思っている」と、さながら番組の自己批判になった。
同日放送だけの視聴では分からないが、これは8日放送のスポーツコーナーでレギュラー出演者の張本勲氏が、東京五輪の女子ボクシング金メダリスト・入江聖奈選手について、「女性でも殴り合いが好きな人がいるんだね。見ててどうするのかな、嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合って…」とコメントしたことへの謝罪だ。
ただ、番組の謝罪は15日放送で行われたので、2週連続の謝罪になる。15日放送では唐沢ユミアナウンサーが番組のお詫(わ)びとして、「女性およびボクシング競技を蔑視したと受け取られかねない部分があり、日本ボクシング連盟より抗議文が寄せられました。不快に思われた関係者の皆様、そして視聴者の皆様、大変申し訳ございませんでした」と述べ、CMを挟んで関口氏と張本氏がそれぞれ「反省します」と謝罪した。
その上さらに、「ジェンダー平等」に反した放送だったと謝罪し直すことを求めた人々がいたのかもしれない。
◆ぼけたアフガン論議
15日の謝罪は、番組看板のスポーツコーナーの五輪報道で、ボクシングが「殴り合い」扱いにされ、女性選手への蔑視と受け止めた日本ボクシング連盟の抗議文に対する意味合いが強い印象だ。
つまりは「タリバンですら」とかこつけて、「ジェンダー主流化」のコメントによりフェミニズムを発揚してからの再謝罪だが、普通は15日放送で終わりだろう。だから肝心のアフガン論議がぼけて、タリバンに甘いコメントに聞こえてしまうのだ。
(窪田伸雄)