藤井聡太世代と羽生善治九段の違いを先輩棋士らが語った3誌

◆藤井の強さは終盤力

 将棋の藤井聡太二冠(19)の大活躍で将棋ブームが続いている。週刊誌3誌が夏の恒例の合併号などに、藤井と元名人羽生善治九段(50)を比較してその強さを分析している。それが平成と令和の社会を映す「世代論」にもなっていて興味深い。羽生は1985年に15歳で中学生棋士としてデビュー、96年2月には25歳で将棋界にあるタイトルをすべて制覇した。藤井は現在棋聖、王位の二冠。

 週刊文春8月26日号では「藤井聡太と羽生善治は何が違うのか」をテーマに、先崎学八段と杉本昌隆八段が対談している。先崎は「彼(藤井)の将棋は無駄がない。肉食獣が草食動物を追い詰めるときみたいに,最小限の力で一気にやる」。藤井の師匠でもある杉本も「(藤井は)回りこんだり、待ち伏せしたりとかはないですね」と。

 それに対し「羽生さんは競り合いに滅茶苦茶強い。競馬でいえば、最後の直線で叩き合いになったら、最後はハナ差でも絶対に勝つ。未だにそういう能力がある。/一方の藤井君は、直線でちょっとでもリードしたら、絶対に差されないという自信があって、実際そのまま押し切るようなイメージです」(先崎)と。また先崎は「藤井君の強さの秘密は、天性の終盤力とAI研究をミックスさせたところにあると思うんです。つまり彼には終盤に絶対に勝てる形があって、そこに至る道筋をAIで研究する」のだという。

 戦いの今昔について杉本は、「昔はタイトル戦でも、本格的にドンパチが始まるのは二日目の午後くらいから、という気分もありましたよね。今の若手世代はみんな理詰めで事前研究をしているので、自分だけフィーリング重視で指そうとすると、全然ついていけなくなる」。将棋界がテクノロジーの影響を最も受けたのは、AI(人工知能)の存在だが、盤上の戦いはデータ駆使の現代社会の縮図となっている。

◆世代交代が一気に?

 一方、週刊ポスト8月20日号、8月27日・9月3日号「羽生善治、50歳の告白/『老い』について考えていること」は羽生へのインタビュー記事。羽生は、藤井ら若手棋士たちに対し「うらやましいと思うことはないです。…自分は昭和のアナログな時代から、テクノロジーが発達した現代までを体験できた。これは実はすごく幸運なこと」。

 (なぜ50歳を過ぎても、2000局以上を指しても、モチベーションを保てるのか)の問いにも「新しい発見があるというのは、すごく大事なことだと思っています。一日一回でも、何かを見つけていくことをモチベーションにしています。発見があると、進歩している実感がある。それが大事なこと」と羽生自身は悠然としたものだが、今や“希少種”に近い。

 ポスト編集部は「AIの登場によって、盤上での純粋な技術勝負が加速している。積み上げてきた実績の威光が薄れてしまうのだから、ベテラン受難の時代である」と説いて、世代交代が一気に進む可能性も示唆している。

◆「好き」だけでは無理

 週刊新潮8月12・19日号で「『藤井聡太』に『名人』たちが助言」と題し、名人だった谷川浩司や中原誠らがアドバイス。中原は「(藤井は)何か新しい手を常に試みようとしている感じ」とするが、「長く棋力を維持するには,将棋だけではなく、ですね」と続け「人間的な広がりが必要。将棋以外のところにも交流と見聞を広げる。それが大切なんです」と。さらに中原は「今は将棋一本でも良いが、それでは長続きしないかもしれません。…人生は長い。回り道に見えますが、将棋と離れる時間を持つことも更なる進化に繋がるはずです」と。このやりとりは、一般の若者の進路についても言える忠言だ。

 どの記事も、先輩棋士たちが後輩に直言、自ら将棋人生を独白するという内容。棋界の上下関係は割と風通しがいいのかもしれない。そんな雰囲気が将棋人気を呼んでいるのではないか。今、将棋は世代を超えて指し合え、交われる最も大衆的文化的ツールだ。そのことがよく分かる。(敬称略)

(片上晴彦)