ネットに飛び交うワクチン・デマと「フィルターバブル」を解説したNHK

◆接種で不安感薄らぐ

 感染力の強いデルタ株に置き換わったことで、新型コロナとの闘いは新たなフェーズに入っている。PCR検査の陽性者数は記録更新の毎日だ。しかし、筆者の不安感は最近、かなり薄らいでいる。ワクチンの2回目接種を終えて3週間が経過したからだ。接種の心理的効果と言えるだろう。

  ワクチン接種がある程度進んだことで、その効果が数字となって表れている。例えば、大阪府の調査によると、今年3月1日から8月15日までの新規陽性者は8万5325人。そのうち、ワクチン未接種者は8万3207人。つまり、接種して感染した人は2118人だけだった。また、死者は1557人、重症者1984人を数えたが、2回接種して14日経過した以降に発病した人に死亡・重症者は出ていない。

  ワクチンを接種しても感染リスクはゼロにはならないが、それでも未接種で感染した人と比べると、①排出するウイルスの量が少なく、排出する期間が短い②無症状の感染者の割合が高い③症状のある期間が短い―ことも分かっている。つまり、接種した本人の感染リスクが低くなり、感染しても重症化しにくくなる上、周囲にも感染を広げにくいのである。

 テレビや新聞が報じる、こうした情報に触れているだけでも、ワクチン接種の効果が分かり、2回接種した人たちの不安感は薄らぐと考えるのが普通だ。もちろん、接種するかどうかを考える場合、副作用も考慮する必要があるが、上述したメリットよりもかなり少ないことが分かっている。

◆異なる考えを度外視

 ところが、このワクチンについて「効果がない」「接種すると不妊になる」など、特にネット上にデマがはびこり、それが人々の不安をあおり、若い世代の接種促進を妨げている現実がある。その背景にあるのが「フィルターバブル」だ。

 あまりテレビを見ない世代がネットやインターネット交流サイト(SNS)を使っているうちに、自分の意見に合致する情報ばかりに接するようになる。そうなると、まるで泡(バブル)に包まれるように視野が狭くなってしまうという、ネットに潜む危険性を象徴する現象だ。

 NHK「フェイクバスターズ」(10日放送)は、このフィルターバブルを柱に、ワクチンに関するデマ情報がはびこる原因を探った。番組は、ある夫婦の例を挙げた。

 妻「コロナのワクチン、絶対打たないでね」

 夫「急になんだよ」

 妻「ワクチンを打つと死ぬかもしれないんだって。SNSでみんなが言っているの」

 この妻が陥ったのがフィルターバブルである。妻は「ワクチンを打つと、周囲の人に有害なものがうつる」と言い、「じゃあ、俺が打ったらどうするんだ」と聞いた夫に対して、「一緒に生活はできません」と、離婚までほのめかしたという。

 フェイスブックには、気に入った情報に「いいね」をクリックする機能があるが、利用者が「いいね」と評価、あるいは過去に検索した内容に合う情報が自動的に送られてくるようになる。そうすると、自分の考えは正しいと信じ込みやすくなり、逆に自分と異なる考えは目に入らないというわけだ。テレビや新聞がワクチンの効果を示す数値をいくら報じても信用しないのである。

◆信頼築いて情報発信

 番組では、医師の山本健人氏が次のように解説した。「あらゆる薬に副作用があるし、あらゆる手術にはリスクがある。医療の情報は常にグレーで白か黒かはっきりしたものはすごく少ない」とした上で「信頼できる情報をうまく集めるためのテクニック・ノウハウみたいなものが必要」。そのポイントは「フィルターバブルの中に陥っているのではないか」と自己点検しながら行うことだという。

 前述の夫婦は、家庭崩壊寸前までいったが、夫が妻の言うことを頭ごなしに否定せず、まず気持ちを聞くことが大切だと悟ったことで、関係修復の糸口を見つけたという。不安感を抱えている人間ほど、フィルターバブルに陥りやすい。そこから抜け出させるのは、多くの若者が使うSNSを活用して信頼を築きながら情報発信することが大切だということを知らせる番組だった。

(森田清策)