雪の首都圏の混乱を実況しながら雪害予算には歯切れ悪い報道番組
◆車の運転に警告的中
ソチ冬季五輪が開幕し、9日放送のフジテレビ「新報道2001」(新報道)は女子モーグル4位入賞の上村愛子選手の夫でアルペンスキーの皆川賢太郎選手ら元五輪選手はじめスポーツ関係の評者らが出演、また、テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」(報ステ)も雪上の華やかな熱戦を伝えた。
が、同じ雪上でも、8日から9日未明にかけて関東を襲った大雪による交通の混乱が話題の半分を食ってしまった。考えてみれば五輪は4年に1度、夏季大会を織り込めば2年に1度だが、東京の都心で27㌢の積雪を観測するのは45年ぶり。たかが天気とはいえ、東京での大規模な雪害報道は珍しい。
一目瞭然の映像メディアの強みを生かした現場報道は、大都市東京がいかに雪に脆弱(ぜいじゃく)であり、便利な都市機能を危険地帯に変化させてしまうか、また東京や首都圏の住民、特に車の運転において雪の怖さに対する認識不足と対策の不備が思い知らされる内容だった。車を運転するドライバーには我が身に置き換えやすい身近な事態だけに、今後の雪に警告を与える効果は抜群だったろう。
◆危険になる都市機能
「新報道」は北海道出身のタクシー運転手「鍋倉さん」に雪の当日の都内交通状況の感想を語らせた。高速の一部区間が閉鎖されていないことに驚き、ノーマルタイヤのまま出掛ける(雪用のタイヤやチェーンを装着しなければならない)、上りの坂道でブレーキを踏む(徐行運転しなければならない)、バイク、自転車で雪道を走る「東京の人」に雪道運転のプロが「無謀だ」と言い切ったのが印象的だ。同様な状況に「報ステ」は、ドライバーの「過信」として戒めた。
実際、雪の少ない首都圏の雪は多くの人にとって溶け去る数日間の厄介事で、雪と付き合う習慣がない。車所有者がすべてスタッドレスタイヤやチェーンを所有しているわけではないだろう。チェーン装着は運転免許取得試験にもなく、自動車教習所も実技演習を必ずするわけではない。
その上、8日の大雪は「16㌢の積雪を記録した1998年1月15日以来」という予想を優に上回った。スタッドレスタイヤを備えた乗用車もスリップ事故を起こした現場が報告され、チェーンを装着した車さえもタイヤが空回りする場面が繰り返された。
「新報道」で8日の雪の危険箇所に同行した防災システム研究所所長の山村武彦氏は、東京都港区赤坂の薬研坂の様子を伝えたが、チェーンを装着したトラックでもスリップし横滑りしながら坂を乗り越えていくのは危険そのもの。山村氏は「報ステ」でも、高架橋の坂道が多い都市の危険を指摘。道路の立体構造は渋滞緩和の決め手だが、降雪時はとんだ裏目になる。
その他、発熱しないLED(発光ダイオード)を使った都内の信号が雪で見えなくなる、電線に着雪し暴風であおられて切れて停電する、実際に江戸川区などの停電した現場、スカイツリーなど高層建築物から落下する雪の塊など、さまざまな危険がチェックされていた。
◆都心の雪害対策必要
ただ、トラブルや事故の場面を数々放送した割には、両番組の雪害対策予算への歯切れは悪かった。「報ステ」で政治ジャーナリストの後藤謙次氏は「何十年に1回の雪でどれだけ予算投入できるか。……ただ雪だけに特化してやるというよりは、外出を控える自衛の方が効率的だと思う」とコメント。
「新報道」でスタジオ出演した山村氏は「東京そのものは雪対策はほとんどやっていなかったが、昨年1月の雪から学習している。一つは気象庁の情報が非常に的確に出ていて見事に的中した」と大雪警報など情報面は評価する一方で、「雪対策は費用対効果からすると何十年に一遍のために大きなコストをかけられないというのは分かるが、その中でも絶対やらなければならない部分はしっかりやっていく必要がある」と呼び掛けていた。
世田谷区多摩川土木事務所の除雪作業を「報ステ」が追ったが、区に除雪車はなくスコップを使っての人力作業だった。首都機能を高めながらこのままでよしとしては、雪にノーマルタイヤの意識と同様だ。関東大震災から東京では直下型大地震を想定した防災対策には関心を注ぐが、これも何十年に1度あるかないか。被害の差はあるが、むしろ雪の交通混乱の方が頻度は高く、対策と態勢を構築する予算措置は取るべきだろう。
(窪田伸雄)