TPP交渉と安倍農政にらみ転換期の日本農業に提言した東洋経済
◆興味深い輸出と経営
日本を含め12カ国によって農業など広い範囲にわたる経済の自由化を目的にした環太平洋連携協定(TPP)の交渉が進められている。とりわけ日本国内では農業分野での交渉の行方に大きな関心が払われている。というのも、加盟国は年内合意を目指すが、仮に日本政府が主張するコメ・小麦、砂糖など重要5項目の関税が取り払われれば、わが国の農業は大きな打撃を受けるからだ。
全国農業組合連合会(JA)をはじめとする農業団体はTPP参加絶対反対を主張、加盟国に日本の主張が受け入れられなければ、即脱退すべきとの強硬姿勢を貫いている。少なくともTPPでの妥結合意は今後の日本農業の方向性を変えるものであることは間違いないため、その動向には目が離せない。
そうした中で、週刊東洋経済は2月8日号で変化する日本農業の実情について特集した。「強い農業 世界に勝つためのヒント」と題し、新しい農業の形を提言する。その一つのキーワードが「海外」、もう一つが「連携」である。折しも安倍内閣は農業の成長戦略の図式として、2020年までに農水産物・食品の輸出総額を1兆円、日本の市場規模を10兆円に広げると公言。さらに10年後には農業・農村の所得を倍増し、主要農家の農地利用を現在の5割から8割へ拡大する。農業従事者の高齢化対策には、40代以下を40万人に拡大し、法人経営体数を現在の1万3000から5万に引き上げると拡大戦略を描く。
従って、同号の特集も政府の路線に沿って展開されている。すなわち、現在、輸出で成功している農家、さらに海外で農業を展開している農家を紹介。「連携」については、既に企業と農家の間で農協を介さずに連携を強め、積極的に農業を進めている農業経営者を登場させ、強い農業の実例を挙げる。
加えて、ローソンCEO(最高経営責任者)の新浪剛史氏や林芳正農林水産相を登場させ、農業の産業化と可能性について言及している。確かに、和食が世界文化遺産に登録され、世界的に人気が集まれば日本の農業にはプラスになる。また、アジアの食市場が広がりを見せる中で日本の農作物輸出は期待は大きい。そういう意味で今回の特集は興味深いものがある。
◆各誌少ない農業特集
ところで、経済誌が農業の特集を企画するのは、そんなに多いことではない。例えば、東洋経済が今回以前に組んだ農業特集は12年7月28日号である。その時の表紙には、「農業で稼ぐ!高齢化、TPPどんとこい」と大見出しが貼られている。論調は今回の特集と同じで、企業化する農業法人、海外に進出する農家、元気な日本農業を紹介している。
一方、週刊ダイヤモンドが農業特集を組んだのが昨年の今頃。13年2月9日号で「TPPで壊滅するのか?日本農業の真の実力」と題し日本農業を分析している。こちらも、日本農業のプラスの側面に焦点を当て、潜在能力の高さをアピールする。もっとも同号でのこの企画はトップの特集ではなく、サブ特集としての扱いで迫力はいまひとつであった。ちなみに、トップの特集のテーマは「公共事業に踊るゼネコン」で、安倍政権の経済政策の一つであった公共事業を前面に掲げた格好だ。
同誌にあって農業がトップの特集になるのは同号から遡ること約2年7カ月前の10年6月29日号の「コンビニ農業 フランチャイズ方式と貸し農園で進む改革」との企画であった。
これが週刊エコノミストになると、農業特集はほとんど見られない。もちろん、1年の経済予測などでは国際動向を絡めながら一つの経済分析として農業問題を取り上げることもあるが、経済誌とはいえ農業問題を特集しないのは意外な感じさえする。
◆TPP交渉で注目を
経済誌は経済問題を取り上げるのであって、農業誌ではないという主張があるかもしれないが、日本農業は高齢化問題など危機的状況にある。全ての農家が海外に進出できるわけでもない。また、北海道農業のように規模拡大しながらもいまだに国際競争力が不足する地域もある。
TPP交渉が加わり国際問題に奔走されるわが国の農業にあって、負の部分を含め様々な視点からの分析・特集があってもいいのではないか、と思うのは筆者だけであろうか。
(湯朝 肇)