短観で景況上向くも力強さのない景気に丁寧な対応求めた読売社説

◆業種・規模でばらつき

 日銀が発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業で2018年12月以来の高水準になったほか、大企業非製造業でも5四半期ぶりにプラス圏に浮上するなど、景況の改善が続いていることを示した。問題は今後も引き続き改善し、経済が力強い回復を見せるかどうかである。

 この短観について社説で論評を掲載したのは、これまでに日経、本紙、読売の3紙である。見出しは次の通り。2日付日経「経済の回復へ油断は禁物だ」、3日付本紙「ワクチン接種進め回復確実に」、4日付読売「力強い回復とはまだ言えない」――。

 列挙した通り、3紙とも景気の本格的な回復はまだとして、楽観を戒め支援の継続を求める。中でも読売が、業種や規模によって好調と不振のばらつきも目立つとして、必要な対応策を記した丁寧さが印象的だった。

 読売が示した対応策は、新型コロナウイルスの感染抑止と事業者支援への努力である。

 目新しくはないが、とにかく丁寧である。例えば、なぜ感染対策が必要なのか。読売の指摘は、こうである。

 今回、大企業製造業で高いDIになったのは、米国などへの輸出が伸びているのが主因だが、3カ月後の先行きは、世界で原油や鉄鉱石など原材料の価格が上がり、コスト増が懸念されている。

 日本の景気を力強く浮揚させるには、輸出頼みから脱却し、内需主導の自律的な回復へと移行することが望まれるが、その内需は大企業非製造業で今回プラスに転換したものの、コロナ禍に苦しむ「宿泊・飲食」は依然マイナス74と低水準にある。

◆感染対策を最重要視

 内需の柱である消費を押し上げるには、安心して買い物やレジャーを楽しめる環境を整える必要があるが、東京では再び感染者が増加しており、「まずは、感染拡大の抑止が優先だ」という具合である。

 ワクチン接種でも、職域接種の申請受け付けが急に停止されたように、一部に混乱が見られる。同紙は「政府は供給見通しを明確に示し、早期に国民に行き渡るよう、市町村や企業への円滑な配送に努めねばならない」と指摘し、適切な対応を促すのである。

 この点、日経は「インド型(デルタ株)の感染拡大はとりわけ非製造業の逆風になりうる。改めて感染対策を強化し、ワクチン接種も急ぐべきだ。コロナ禍の収束が遅れれば経済の早期回復は望めない」と記すのみ。

 本紙も「経済の回復にはワクチン接種の加速が不可欠」「東京五輪で首都圏、特に都内で人の移動の増加が見込まれ、感染対策の上で一つの試練だが、重症者数を着実に減らし、感染者数の増加を防ぎながら経済活動の正常化を目指したい」にとどまり、読売の丁寧さには及ばない。

 また読売は、対応策として挙げた、休業や時短営業に応じている事業者への支援で、協力金の支給の遅れを問題視。「困窮する事業者の資金繰りは、一刻を争う場合が多い。雇用を守るためにも、政府と各都道府県は、手続きの簡素化などによる迅速な支給を進めてもらいたい」と訴えるなど的を射た論調を展開し、真摯(しんし)さも見せた。

 日経は、景況感の分析では「改善ペースは緩やかだ。総じて輸出に支えられた面も大きく、内需はもたつく。経済の先行きに油断は禁物だ」と簡潔で的確である。

◆先行きは楽観できず

 また、同紙は先行きが楽観できない理由に、3カ月先の業況を予想したDIで企業が慎重な姿勢をしたことを「気がかり」として、読売同様、世界的な半導体不足と原油など資源価格の高騰を挙げ、「製造業への影響を注視する必要がある」と指摘するが、尤(もっと)もである。

 日経は文末で「感染を収束させ経済を回復させるには、いまが踏ん張り時だ」とした。現実を無視し一方的な政府批判の傾向の強い左派系紙(今回は論評なし)に比べ、現実論の実感の込もった指摘である。

(床井明男)