「ミニ警察国家」と化した香港の悲惨な現状伝えるNW日本版の特集

◆消滅した自由な香港

 これまでも「香港の出口―『香港介入』中国のリスク」( 2019年 8月27日号 )、「香港の挽歌―さらば自由な香港」(20年7月14日号)と香港の特集を書いてきたニューズウィーク日本版が、国家安全維持法(国安法)が適用されてから1年後の今年、「暗黒の香港―さらば、自由な香港」(7月13日号)を出した。

 昨年の副題と今年のが同じだが、「さらば」の後に「、」が入っているのは、自由な香港が完全になくなってしまったことを強調させる意図があったのかどうか、編集部に聞きたいところだ。

 「中国政府が香港に鉄拳支配を確立するのは不可能だ。ただし、そこを破壊するなら話は別だ――筆者は2019年にそう書いた。あれから2年、中国政府は本気で香港を破壊し、あの『抵抗都市』を服従させようとしている」

 許田波(ビクトリア・ホイ、米ノートルダム大学政治学准教授)が書き出す冒頭記事は「香港が警察都市に変わった日」である。

 その日がいつかといえば、国安法が適用された昨年6月30日だっただろうが、中国政府が香港の「一国二制度」と「高度な自治」の字面を完全に無視して、次々に民主活動を潰(つぶ)していったその仕上げとなる「蘋果日報(リンゴ日報)」の廃刊の日、つまり今年6月24日だろう。

 既に昨年8月、発行人の黎智英(ジミー・ライ)は逮捕され、今年4月に禁固刑が下されていた。資産も凍結され、主筆の馮偉光ら編集幹部も逮捕、ついに新聞を発行していくことができなくなり、舌鋒(ぜっぽう)鋭い中国批判を展開してきたリンゴ日報は香港の歴史から消されてしまった。

◆次々と民主派弾圧策

 許田波はだが、そんなセンチメンタルなメディアの消滅には酔っていない。まして、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)の逮捕・釈放とその後の「沈黙」に香港の暗さを象徴させることもしていない。

 むしろ、表に出ていない数多くの民主派を恐れた中国が、香港立法会(議会)に彼らが当選してくることを防ぐ制度を次々に繰り出して封じ込めたことを書き、香港が自由の息の根を完全に止められたことを外部世界に認識させる。

 そして「ここまで来ると、もう香港は立派なミニ警察国家だ」と吐き捨てた。19年、警察が市民に拳銃を発射し、滅多(めった)打ちにしているシーンに衝撃を受けたが、その情け容赦のない制圧がいま完全に成立してしまったということだ。

 許は「かつてニューヨークやロンドンと並び称された国際商業都市・香港を、中国共産党は破壊し、ただの地方都市に変えようとしている」と記事を結ぶ。かつて「深圳の香港化、広東の深圳化」と言われて、自由な政治経済制度が浸透していくだろうと西側は楽観視していた。だが、実際は、なす術(すべ)もない香港の悲惨な現状である。そのことが激しく伝わってくるリポートだ。

 この他、特集にはイアン・ブルマ(作家・ジャーナリスト)の「こうして言論の自由は死んだ」、阿古智子(東京大学大学院教授)の「変わり果てたあなたを憂いて」の記事が続いて、最後に木村正人(在英ジャーナリスト)の「英国に逃れた民主派の叫び」が載っている。

◆民主主義諸国へ警告

 英政府の「特別ビザ」によって香港から逃れた市民は「10万人いる」という。その一人、民主活動家の羅冠聡(ネイサン・ロー)は木村に、「香港は終わっていない。香港市民は勇気と創造性を失っていない」と力説した。

 国安法で指名手配されているサイモン・チェン(元香港英国領事館職員で英へ政治亡命)が語る。「西側が南シナ海や東シナ海を『次の香港』と受け止めなかったら、中国は民主主義諸国には自由を守る強固な意思がないと見なすだろう。台湾も統一できるという誤ったシグナルを送ることになる」と。

 そして「日本は地理的に中国と近く、中国を激怒させるリスクを恐れている」と非難した。その言葉が刺さってくる。(敬称略)

(岩崎 哲)