「義務教育が変わる」と題して「イエナプラン」教育を紹介するアエラ
◆異なる年齢を一組に
アエラ(6月21日付)が「義務教育が変わる、誰もが伸びる」と題して、「イエナプラン」教育を紹介している。イエナプランとはドイツの教授が取り組み、1960年代以降にオランダで発展した教育法だ。現在、ほとんどの学校で行われている、教師が生徒に同じことを一斉に教える教室授業とはまったくスタイルが異なる。異年齢構成のグループで、自分たちで課題を決め解いていく、というもの。上級生が下級生に解き方を教える、ということが自然に出てくるわけだ。現役教師が聞いたら顔をしかめるか、逆に食い付くか、評価は分かれるだろう。
今の教育現場では、学年で決められた漢字以外で答えを書くと不正解にされたり、答えは合っていても、解答を導き出す「式」が「正解」と違えばバツをもらう、という杓子(しゃくし)定規な教え方が厳格に守られている。教師が求める答えをその通り出せる子供をつくっているのが、現在の教育といっていい。
長野県佐久穂町の私立学校「大日向小学校」でイエナプラン教育が導入されている。評判を聞いて、移住して子供を入学させる人もいるという。校長の桑原昌之氏はここで身に付くものを「高性能自立型エンジン」だと同誌に語る。
「自分で興味を持ったことに挑戦する。好きだと感じたことをとことん追求する。そうすると当然他者とぶつかることもある。『それにどう折り合いをつけていくか。子どもたちは対話し、試行錯誤しながら他者を尊重するようになっていきます』」という。
なんだか好ましい教室風景が浮かんでくる。だが、興味の薄い子、進度の異なる子、などを異年齢集団の中でどう導き連れていくのか、など、課題も多そうだ。同誌がイエナプランにもありそうなそうした負の面を紹介していないのが残念だ。
◆詰め込み型では限界
知識偏重の詰め込み教育の“弊害”が言われて久しい。「自分で考える力」、その前に「問題設定できる能力」などが問われ出し、小中高教育の“ゴール”である大学入試にも「記述式」設問が出るようになった。だが、結局、これも記憶力をベースに読解力、問題整理能力、記述力が問われるだけで、自分で問題を作る、つまり疑問に思ったり、興味を持ったりする力を養うことにはあまりつながらない。
このイエナプラン教育の成果を早急に求めることはできないだろうが、同誌が言うように「義務教育を変える」ことになれば朗報だろう。それと、大学入試がこうした生徒の能力を問う形に変わっていけば、必然的に教育の流れは変わっていくのだが。
さて、そもそも、なぜこうした取り組みが出てきたのだろうか。公立学校でも導入を決めた所がある。広島県福山市の常石(つねいし)小学校だ。同市がまとめた「福山100NEN教育」で「変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育てる」ことを掲げた。デジタル化、国際化が怒涛(どとう)のように進む世界で、これに対応して生きていける子供を育てるには、現在の教育では立ち行かないと感じたわけだ。それには知識詰め込み型では限界がある。自ら考える力を養わなければならない。それをこのイエナプランに託した、ということなのであろう。
◆課題は教師側の対応
現場の教師は忙しい。授業の年間計画を立て、それをこなしていくのに汲々(きゅうきゅう)としている。コロナなど不測の事態があれば、計画は崩れ、消化できないことになる。一方で文部科学省からは「働き方改革」を迫られる。時間がどんどん削られるのだ。授業以外でも部活や生徒指導、PTA・地域との関わりで、残業しても追い付かない。そんな時に、子供にもっと考えさせて、という方針が出されたら、教師は対応できるのだろうか。
とはいえ、日本の教育が変わらなければ、変化に対応できる世代を生み出せず、国自体が活力を失っていくのは目に見えている。
(岩崎 哲)