貿易赤字拡大で燃料費が主因と認めるも「原発再稼働」否定の朝、毎
◆日経など再稼働提案
2013年のわが国の貿易赤字が過去最大になった。通関ベースでみた貿易収支は、11兆4700億円の赤字で前年比65%増。東日本大震災が発生した11年以降、赤字は3年連続で額も年々拡大している。
各紙の論説陣も注目し、これまでに朝日、日経など4紙が社説ないしそれに準ずる欄で取り上げている。
日付順に列挙すると、日経社説(1月28日付)「燃料のコスト抑え輸出競争力を高めよ」、産経「主張」(同29日付)「『もの作り』で反転攻勢に」、朝日社説(2月2日付)「構造変化に向き合おう」、毎日「視点」(同)「『国富流出』の議論」である。
赤字拡大の原因については、各紙とも、「円安や原子力発電所の停止で燃料などの輸入が膨らみ、輸出を大幅に上回った」(日経)などでほぼ一致している。
貿易赤字を改善するには、いかに輸入を減らし、輸出を増やすかである。だから、例えば、日経が「日本の経済や財政に与える影響を重く受け止め、燃料調達費の抑制や輸出競争力の強化に努力すべきだ」と訴えるのは、当然と言えば当然である。
同紙の「財政に与える影響」というのは、貿易赤字が続き、日本が恒常的な経常赤字に陥れば、より多くの海外資金に頼らざるを得なくなり、現在、国債の9割以上を国内資金で消化する状況が難しくなるからである。
このため、同紙や産経などは、輸入を減らすために燃料調達費の抑制を「重要」と強調して、「割安なシェールガスで作るLNGを米国から輸入したり、電力・ガス会社がまとまってLNGを購入したりする工夫が要る」(日経)と指摘。また、企業や個人がもう一段の省エネに取り組み、輸入に頼らない太陽光や風力などの再生可能エネルギーを伸ばすことも大切とした上で、「安全性の確保を大前提に、原発の再稼働を着実に進めていく必要もあるのではないか」(同紙)と提案するのだが、これまた尤(もっと)もである。
◆不都合な現実は見ず
ところが、朝日は「(東日本大震災後、赤字に転じた)直接の原因は国内の原発が止まり、火力発電の燃料である天然ガスや原油の輸入が増えたことだ」と指摘しながら、「赤字拡大は円安による金額増が大きく、原発停止そのものの影響をことさら強調するのはおかしい」と反論する。
確かに、円安の影響も大きいだろうが、原発停止のそれも3兆円以上あって主要因の一つであり、無視できるものではない。朝日は「ただ、負の要素であるのは間違いなく」と認めるものの、「省エネを進めつつ、北米で採掘が本格化するシェールガスの調達などで支払いを抑える努力が不可欠だ」と強調するだけで、原発再稼働については一切触れない。自らの主義に都合の悪い現実には眼をつぶる主張である。
さらに、毎日「視点」も文中の小見出しに「再稼働に絡ませるな」とあり、これが最も言いたいことのようである。
この記事は、論説委員の中村秀明氏によるもので、「貿易赤字の拡大と原発再稼働への思惑を絡ませるかのような主張が、政府や経済界などから繰り返されている。だが、それは乱暴な論法ではないか。貿易赤字と原発再稼働の是非は、切り離して多面的に議論すべき問題である」が趣旨のようである。
◆多面的議論に原発を
同氏は10年と13年を比べ、天然ガス輸入量は25%増えたが、原油輸入量は微減。金額では天然ガスが倍増して約7兆円、原油は1・5倍の約14兆2000億円。量の増加に比べ額の増え方が大きいのは、天然ガスと原油の国際価格上昇に加え、アベノミクスによる円安で円建て価格がふくらんだからだ、とする。
さらに、貿易赤字拡大は「天然ガスと原油の輸入増以上に、電子部品やスマートフォン、衣類などの輸入が増える一方で、円安が追い風になるはずの日本企業の製品輸出が伸びなかったためだ」とも。
もちろん、そうした面はあり、誰も否定していない。同氏が指摘するように、「多面的に議論すべき」で、その中の一つに、原発停止による影響もある、ということである。「原発再稼働の是非を絡めるな」との主張は、多面的議論を求める主張を自ら否定するものであろう。
(床井明男)