“儲かる農業”を特集するダイヤモンド、農業の知的財産権保護の企画も

◆加速する主役の交代

 決して農業に限ったことではないが人手不足、後継者不足は農家にとって長年の深刻な問題となっている。全国的に見ても離農する農家は多い。一方、政府はここ数年、農業を新たな輸出産業として位置付け振興策を打ち出している。事実、農産物の輸出額は増加傾向にある。2010年の2800億円だったのに対し19年5900億円と10年間で2倍以上の伸びを見せる。果たして、農業は“儲(もう)かる産業”なのか。

 この問題に週刊ダイヤモンド(3月20日号)が焦点を当てて特集を組んだ。その名も「儲かる農業2021」。同誌は「農業の主役交代が加速している」とし、異業種の参入によって収益を上げる農家を紹介する一方で、これまで農家を主導してきた農協(JA)の凋落(ちょうらく)ぶりを描いている。

 一例を挙げれば、1本1000円のバナナ、1株3万円のバナナ苗を販売して収益を上げている「D&Tファーム」(岡山県岡山市)。凍結解凍覚醒法という独自の技術を使って冷温帯地方にある日本でもバナナの栽培を可能にした企業である。すでに「皮まで食べられるバナナ」としてテレビなどでも紹介されているが、設立(14年12月)から4期目で18億円を売り上げ、21年は50億円を目指す勢いだ。現在はバナナだけでなくコーヒーやカカオなどの増産プロジェクトを進めているという。

 この他に、情報大手のNTT東日本と連携し人工知能(AI)を使って収量を予測し生産販売を行っているトマト業者のサラダボウル(山梨県中央市)や建設機械大手のコマツと組み、情報コミュニケーション技術(ICT)を駆使したブルドーザーによる低コストでの水田開発で収益を上げる「ゆめうらら」(石川県志賀町)などを紹介。これらはダイヤモンド誌が収益性に注目して毎年選ぶ「中小キラリ農家」にランキング入りする20の中小農家の中の数例だが、ランク内の農家の経営者はほとんど30代から40代という若手である。要は農業は、やりようによって伸びしろがある、ということを示している。

◆農協の守旧体質批判

 一方、JAには厳しい評価が目立つ。19年2月に発覚したJA対馬の不正・職員自殺事件を約4ページわたって展開。全国504農協のうちの農協赤字危険度ランキングを掲げるなど農協の守旧的な体質をただしている。

 例えば、JA青森については、「2008年に4つのJAが組合員の拡大とコストダウンを図って合併してできたものの芳しい統合成果は上がっていない」として「安易な合併はむしろ経営を弱体化させる。農業振興策こそ必須」と結論付ける。

◆優良品種の流出防げ

 ところでダイヤモンドは前週号(3月13日号)でも「進化する農業」をテーマにした企画を立てている。もっともこれは日本弁理士会が主催する6ページほどの特別広告企画なのだが、農業に関連した知的財産権を保護すべきだという提言になっているところが興味深い。「いちごの『紅ほっぺ』や、ぶどうの『シャインマスカット』、さつまいもの『紅はるか』などが、海外で無断で栽培され、その栽培面積が日本の100倍近くに及ぶものがある」と指摘し、海外への優良品種の流出を防ぐためにも対策が必要だというのである。「アグリビジネスにおける品種登録はもはや海外でも行うことは必須。優良な新品種は農業の強みの源泉でもあるため知的財産の保護は喫緊の課題」と強調、さらに「品種登録は販売が始まってからでは遅い。新品種の育種方法や栽培方法の特許を取得してから段階を踏んで商品登録するなど知的財産を保護しつつ戦略的な知的ミックスが重要だ」と説明する。

 政府は農業を含め、水産物や食品などの輸出額を25年までに2兆円、30年までに5兆円とする目標を掲げている。AIやICTを駆使したスマート農業の活用で人材不足が解消され、高収益化によって後継者不足といった課題も徐々に解決の道が開かれてきた。そうであればあるほど知的財産保護の体制は不可欠になってくる。

(湯朝 肇)